その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

演劇 『赤道の下のマクベス』(作・演出:鄭 義信)@新国立劇場小劇場

2018-03-25 07:00:00 | ミュージカル、演劇



 超ヘビー級の作品。節々にユーモア、希望、愛が差し込まれるものの、絶望的な状況、運命にはあがなえない。重く滴る涙なしには観ることができない。アウトコース低めに150キロで砲丸を投げ込まれたように、手が出ない、くすむしかない。

 1947年、シンガポール、チャンギ刑務所で、第二次世界大戦のBC級戦犯として収容されていた日本人と元日本人だった朝鮮人が織りなす交流の物語である。上官の命令に従って捕虜を強制労働に駆り立てた朝鮮人監視員たち、ゲリラであることが疑われる住民を殺した日本人兵士、命令を下す側であった日本人将校など、絞首刑の判決を受け執行を待つばかりの囚人たちの多種多様な感情、想いが表現される。生への渇望、故郷の家族への思い、自己の行為への罪悪感・贖罪、上官へのたてた憎悪、祖国は解放されながらも自身は帝国協力者として裁かれる不合理、複雑な要素が様々に絡み合う。

 どの俳優も個性豊かで持ち味を十二分に出し切っていたが、中でもマクベスを愛し、常に明るく未来を見る朝鮮人 朴南星(清本南星)を演じた池内博之の熱演が光る。「なぜマクベスはダンカンを殺したのか。魔女や妻にそそのかされたからではない。自ら破滅の道を選んだのだ!そして俺も、上官の命でも、朝鮮人だからでもなく、この道を選んだのだ」(私の記憶によるので、正確ではない)と叫ぶ迫力は、凄まじい。

 この作品、韓国で上演されたものを一部修正して日本で上演されているとのこと。どこにどう修正が加わったのか、興味があるところではある。歴史の重み、民族の思い、人間の憎悪と愛、罪と罰、どのテーマを重く受け取るかは、観る人それぞれだろう。演劇というメディアの深みを見せつけられた舞台だった。


作・演出:鄭 義信
美術:池田ともゆき
照明:笠原俊幸
音楽:久米大作
音響:福澤裕之
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:川端富生
擬闘:栗原直樹
演出助手:城田美樹
舞台監督:北条 孝

キャスト
池内博之 浅野雅博 尾上寛之 丸山厚人 平田 満  
木津誠之 チョウ ヨンホ 岩男海史 中西良介

コメント
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