その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ユヴァル・ノア・ハラリ (著), 柴田裕之 (訳) 『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』 2019年、河出書房新社

2020-01-22 07:30:00 | 

過去から現代に至る人類の歴史を描いた『サピエンス全史』、人類の未来を描いた『ホモ・デウス』に続き、3部目となるハリル氏の著作。現代社会の人類にとって重要な21のテーマについて、筆者の思考が展開される。個人的なお正月の課題図書として読んだ。

発表済みの内容も含めて、テクノロジー、政治、戦争、宗教、取りうる処方箋など幅広く21のテーマを集めたエッセイ集とも言える。章による記述の濃淡もあり、前二著ほど統一感のある編集にはなっていないが、ハリル氏らしい広い見識と深い思考は読みごたえたっぷりだ。

底流に流れる思考は前著を引き継ぐ。人間(サピエンス)がこの地球の支配的な力を得るようになったのは、協力する力と「物語」「虚構」を信じる力であったこと。今後、AI、データ処理などの情報技術(IT)とバイオテクノロジーの両輪が人類の未来を大きく変えてしまうであろうことだ。本書から読み始めると、所々、筆者の主張や記述は唐突に感じるかもしれない。できれば、前著を読んでから、本書を読んだほうがいい。前著を読んだことのある人には、そのおさらいとしても読める。

本書の目新しさは、SF映画・SF小説、「人生における意味」、筆者が日々の実践している「瞑想」などの現代的で身近なトピックスを、ハラリ氏の過去・未来の連続性の中でその意味合いを位置付けていることだろう。筆者の個人的な顔も垣間見れる。読んで損はない一冊だと思う。時に触れて読み返すと新しい発見も出てくるに違いない。

 

【『21 Lessons』で取り上げる21 の課題】

幻滅/雇用/自由/平等/コミュニティ/文明/ナショナリズム/宗教/移民/テロ/戦争/謙虚さ/神/世俗主義/無知/正義/ポスト・トゥルース/ SF /教育/意味/瞑想

1 幻滅――先送りにされた「歴史の終わり」
2 雇用――あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない
3 自由――ビッグデータがあなたを見守っている
4 平等――データを制する者が未来を制する
5 コミュニティ――人間には身体がある
6 文明――世界にはたった一つの文明しかない
7 ナショナリズム――グローバルな問題はグローバルな答えを必要とする
8 宗教――今や神は国家に仕える
9 移民――文化にも良し悪しがあるかもしれない
10 テロ――パニックを起こすな
11 戦争――人間の愚かさをけっして過小評価してはならない
12 謙虚さ――あなたは世界の中心ではない
13 神――神の名をみだりに唱えてはならない
14 世俗主義――自らの陰の面を認めよ
15 無知――あなたは自分で思っているほど多くを知らない
16 正義――私たちの正義感は時代後れかもしれない
17 ポスト・トゥルース――いつまでも消えないフェイクニュースもある
18 SF――未来は映画で目にするものとは違う
19 教育――変化だけが唯一不変
20 意味――人生は物語ではない
21 瞑想――ひたすら観察せよ

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