その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ブレイディ みかこ 『僕はイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社、2019)

2020-01-03 07:30:00 | 

イギリスのブライトンで、アイルランド人のご主人と中学生の息子との3人で暮らす著者が、息子の中学校生活を軸にして現代イギリス社会を描くノンフィクション。家人のお勧めで手に取った。EU離脱議論を含む伝統的価値と多様性の相克などのイギリスにおける社会問題が、日々の生活の中で具体的、ユーモア一杯、読みやすく描かれており、内容の面白さとともに、とってもいい勉強にもなる。

EU離脱、移民問題、LGBT、階級社会などのまさに今ここにある社会変化が、学校現場でどういう形で現れて、扱われているかを等身大で疑似体験できるのが本書の最大の魅力である。私自身、ロンドンに4年弱駐在こそしたものの、単身赴任だったのでコミュニティや学校社会と触れる機会は殆どなかったし、ロンドンはイギリスでは特殊な都市なので、そこからイギリスを一般論的に語るには無理がある。筆者が描くブライトンの生活は、職場のイギリス人同僚や国際結婚でイギリスに定住した日本人から耳にした話とも相似でとっても親近感も湧いた。

また、主人公ともいえる筆者の息子が、良家の子供が殆どのカトリック小学校から、地元の公立「元」底辺校を選んで入学し、複雑な環境に自らを適応させつつ、自律して育っていく様子は羨ましいほど。また、必要以上の口出しをせず、子供を信頼し見守る親としての姿勢も素晴らしいと感じた。

どのエピソードも興味深いのだが、個人的には、地域の学校対抗水泳大会で、学校による階級差が明確に分けられるシーンなどは、今もって残る英国の階級社会の実像を知ることが出来面白かった。

ここで描かれたのはイギリス社会の一例と言うよりも、既に日本で起こっていたり、将来起こりうる社会課題そのものだ。その意味でこの本は少しでも多くの人に読んで欲しいと思ったが、最近、本書がベストセラーの上位にランキングされていることを知り嬉しい気持ちになった。おすすめです。

はじめに

1 元底辺中学校への道

2 glee/グリー」みたいな新学期

3 バッドでラップなクリスマス

4 スクール・ポリティクス

5 誰かの靴を履いてみること

6 プールサイドのあちら側とこちら側

7 ユニフォーム・ブギ

8 クールなのかジャパン

9 地雷だらけの多様性ワールド

10 母ちゃんの国にて

11 未来は君らの手の中

12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー

13 いじめと皆勤賞のはざま

14 アイデンティティ熱のゆくえ

15 存在の耐えられない格差

16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン

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