その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』プレジデント、2020

2021-08-12 07:44:16 | 


台湾で35歳の史上最年少でデジタル担当政務委員として入閣。コロナ禍においてもITを駆使した感染拡大防止策で効果を上げ、日本でも一躍有名となったタンドリー・タン氏がデジタルやAIについての考えを語った一冊。編集者とのインタビュー/ディスカッションをまとめたもので、構成や論理展開に分かりにくさが所々あるものの、氏の生い立ち、考えが理解できる一冊である。

中学を中退し、独学、起業を経て現在に至る型にはまらないスケール大きい経験値や能力がにじみ出ている。氏の人や社会を観る目は優しく、大らかで、楽観的だ。インクルージョンの思想の元、すべてを包み込む温かさを感じる。

備忘録として印象に残った点を3つほどメモしておきたい。

・AIやディープラーニングも決して社会の方向性を変えるものではない。AIはあくまでも人間を補助するツールであり、進むべき方向を決めるのは人類であるとし、AIと人間の関係をドラえもんとのび太の関係に例える。ドラえもん(=AI、ロボット)の目的はのび太を成長させることであって、のび太に命令して何かをやらせることではない。のび太もドラえもんだけでなく、家族や友達との相互交流の中で生きている。

・「公共の利益」「共通の価値・解決策」と言った「公」への意識が強いのが氏の特徴。そして、台湾や日本に特徴的なインク―ジョン(例えば、多神教)や寛容の精神が異なるものを昇華させ、イノベーションの基礎になるとも言う。新鮮な視点である。

・子供はデジタルの「スキル」よりも「素養」(平素の学習で身につけた教養や技術)が大切であると説く。プログラミング言語よりも、「子どもたちが一つの問題をいくつかの小さなステップに分解し、多くの人たちが共同で解決する」プロセスを学ぶプログラミング思考を学ぶべきである。
そして、デジタル社会で求められるのは「自発性」「相互理解」「共好」の素養であること、STEAM+D(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics + Design)教育の根幹はScienceとTechnologyであるが、創造性を与えるのはArtsでありDesignである。

インタビューをまとめた内容だから簡単に読めるものの、読み流さず、その真意をしっかり理解したい1冊だ。
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