あまり過去の思い出に浸るようなことは好みではないのだが、このお盆、どこに出かけることも無く、実家の片付けにいそしんでいたら、本当に懐かしい若かりし時の思い出の品が発掘されたので、記録しておきたい。
学生のころ、アメリカ文化への憧れと英語学習目的でフィラデルフィア近郊の学校に半年ほど語学留学した。偶然、学生向けカルチャープログラムでフィラデルフィア管弦楽団の定期演奏会を毎月視聴するという企画があったので、物見半分で申し込んでみた。最安席(5階席!)をスクールバスでの送迎付きで、7ドルという当時でも破格の価格だった。それまで日本での生の演奏会経験は2,3回程度だったのだが、ここでの冷やかし半分の経験が、今の演奏会通いに導いたきっかけとなった。
今でも印象に残っているのが、1988年1月のテンシュテット指揮のブルックナーの7番。初めて聴く曲で、聴きどころも全くわからないままだったのだが、とにかく武骨にグイグイと畳みかける音塊に圧倒された。前半のチャイコフスキーの〈ロココの主題による変奏曲〉の甘く優美な音楽に酔いしれていたので、それとのギャップも驚きだった。これ以降、ブルックナーの7番を聴けば、この時の感動と比較してしまうので、進んでこの曲を聴きに行くことができないままでいる。
キャンパスからアパートまで2キロ程の帰路を、氷点下を優に下回る気温、かつ体が吹き飛ばされそうな逆風の中を歩いて帰った。凍死するのではないかという恐怖に襲われるほどの寒さで、コットンのコートの襟を立てて、体を縮ませて歩んだ。それでも、胸のうちだけは音楽を聴いた熱い感動がそのまま維持されていたのを今でも体が覚えている。
〈プログラム表紙〉