その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

櫻井武 『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』講談社ブルーバックス、2018

2024-01-17 07:30:26 | 

我ながら自分の読書が偏っているなあと思うのは、自然科学系の本が殆ど無いことだ。本ブログで読書カテゴリーで450近くのエントリーをしているけど、「ブルーブックス」は今回が初めて。

本書は神経科学からみた「こころ」の働き方、生体の機能としての「こころ」の働き方を解説している。「こころ」の源泉は脳で生成され、脳は全身の器官に影響を及ぼして「こころ」を表現する。全身の器官もまた、脳に情報をフィードバックして感情や気持ちを就職し、「こころ」を変化させる。そのメカニズムが説明される。

筆者自身のまとめを引用すると、

「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである。」(p.214)

慣れない用語が頻発し、日本語は平易だが中身の理解にはかなり骨が折れた。1番の収穫は、人間の「こころ」は、脳を中心にヒトの全身で成り立っている複雑でデリケートで奇跡的な仕組みであることを理解できたことだ。昨今、AIが世のトレンドであり、その能力にも驚嘆すること多々だが、「こころ」は明確に人とAIが線引きされる要素だろう。

一方で、「AIはこころを持てるのか」はよく目にするテーマである。複雑系のかたまりの「こころ」の仕組みを知る限り、それをエンジニアリングするというのはさすがに無理だろうと感じたが、様々な論考がされているようなので、この辺りは別に考えてみたいテーマだ。

「おわりに」で気になる記述があった。「性格の個人差」という論点である。本書ではエビデンス無いため記述しなかったと書いてあるが、こんな指摘をしている。

「「こころ」は学習可能なシステムであるがゆえに、生活環境といった環境要因に加え、「遺伝的要因」が色濃く反映される。それは、神経経路の構造の微細な差異や、第7章で述べたような脳内物質の受容体のほんの少しの差、それらの無限の組み合わせによって生まれると想像される。実際にモノアミン系の受容体には、いくつもの遺伝的多型が知られている。これらもまた、「こころ」の個性を作っていると考えられる。」(p.220)

身体や能力だけでなくて、「こころ」も遺伝要素があるというのだ。是非、筆者には、続編としてこのテーマについて掘り下げてほしい。

 

《目次》

第1章 脳の情報処理システム
第2章 「こころ」と情動
第3章 情動をあやつり、表現する脳
第4章 情動を見る・測る
第5章 海馬と扁桃体
第6章 おそるべき報酬系
第7章 「こころ」を動かす物質とホルモン
終 章 「こころ」とは何か

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