その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

布施 祐仁, 三浦 英之『日報隠蔽 自衛隊が最も「戦場」に近づいた日』 (集英社文庫, 2020)

2020-08-01 07:30:00 | 

がっかりすることばかりで完全に劣化・恐竜化・衰退しているとしか思えない日本のマスメディアの現状の中で、ジャーナリズムへの希望と価値を感じる一冊である。

南スーダンへの自衛隊の平和維持軍(PKO)の活動において、2017年7月の派遣地での戦闘が報告された日報を政府が隠蔽したスキャンダルを軸に、日本と現地で活動した二人のジャーナリストの取材報告である。情報公開制度を使って政府の嘘を鋭く追及した布施氏とアフリカ駐在で南スーダンに何度も足を運んで現地の状況をリポートした三浦氏の活動は、結果として稲田防衛大臣の辞任、自衛隊の撤収に繋がった。

在野のジャーナリストである布施氏の、情報公開制度を活用した地道な調査、追及は敬意を表したいし、高い危険の中で南スーダンの現状を取材してきた三浦氏の取材の迫力はすさまじい。二人の記述からは、現地・現物に基づいた圧倒的な事実の強さを感じる。

二人のレポートを章ごとに夫々交互に記載する形式は、日本における日報を巡るスキャンダルと現地南スーダンの状況が立体的に浮かび上がり効果的だ。前半・中盤読んでいて、日報スキャンダルの事件性に焦点が当たりすぎていて、PKO、自衛隊、日本の安全保障と憲法の問題といった事件の背景・構造への記述が弱いのではないかと感じるところはあったが、エピローグや最後の二人の対談の中で触れられていたので得心したのと同時に、書籍としてのメッセージはこうしたアプローチが明確に伝わるのだろう。

また、本書を読んで改めて感じるのは公文書管理・公開の重要さだ。現安倍政権では、現在の新型コロナ感染症についての情報、先般の「桜を見る会」の参加者名簿、森本・加計学園問題等で、公文書管理やその情報公開について、権力に寄った信じられない対応が続いている。戦前のような、政府の情報操作に踊らされ、最後には馬鹿を見る国民にはなりたくない。

強く一読を勧めたい一冊である。

 

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