Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

日本SP名盤復刻選集

2009年08月04日 | 音楽
 電子部品メーカーのローム株式会社の創業者、佐藤研一郎さんが設立した財団法人ローム ミュージック ファンデーションが2004年から発行していた「日本SP名盤復刻選集」が、本年5月に完結した。全4巻からなり、合計でCD26枚という膨大な量。

 「発行の趣旨」によると、音源は「日本の洋楽レコードの黎明期である1912年(大正元年)からSPレコードの生産がLPレコードへと本格的な転換期を迎える1952年(昭和27年)までの約40年間」のSPレコード。
 収録曲の選定条件は、「①日本人音楽家による外国人作曲家作品の演奏(国内録音・海外録音)、②日本人作曲家作品の演奏(国内録音・海外録音)、③日本で活躍した外国人音楽家の演奏(国内録音)」となっている。

 一言でいうと、日本の洋楽の黎明期の音源の収録。放っておけば、いつかは散逸するかもしれないSPレコードが復刻され、後代に残される意義は大きいと思う。

 たとえば1930年に録音された近衛秀麿の指揮する新交響楽団(今のN響の前身)のマーラーの交響曲第4番(ソプラノは北澤栄という人)。これはこの曲の世界初録音だったそうだ。産声をあげたばかりの当時の日本のオーケストラが、もうマーラーを演奏してしまうとは、驚くばかり。演奏はたしかに危なっかしいが、そのことを今の耳であれこれ言うことは適当ではない。

 近衛秀麿の演奏では、ベルリン・フィルを振ったモーツァルトの管楽器のための協奏交響曲(1937年ドイツ録音)やハイドンの交響曲第91番(1938年ドイツ録音)もあり、いずれも堂々とした指揮ぶりだ。オーケストラもさすがの優秀さ。
 近衛秀麿は大戦中は結局ヨーロッパにとどまったが、これらの録音をきくと、当時の活動の一端がうかがわれる。

 終戦後、帰国したが、戦後の日本では時流が変わり、不遇をかこっていた。
 私は幸いにも、中学生から高校生のころによく出かけたテレビの公開録画で、その最晩年の演奏に接することができた。読売日響や日本フィルを振ったシベリウスの交響曲第2番やチャイコフスキーの交響曲第5番。熱のこもった大らかな流れのその演奏に、近衛秀麿ってなかなかいいじゃないかと思った記憶がある。

 音楽にかぎらず社会のいろいろな分野で、戦後を席巻してきた潮流が失速し、今まで日陰の存在だったものにも目が向けられるようになってきた。今後、近衛秀麿の評価はどう進むのだろうか。
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