Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ばらの騎士

2011年04月23日 | 音楽
 新国立劇場の「ばらの騎士」最終日。カーテンコールでは熱い拍手が送られた。急きょ来日して急場を救った指揮者マイヤーホーファーと元帥夫人役のベーンケ、予定どおり来日したオックス男爵役のハヴラタには、心からの感謝の拍手。代役をつとめたオクタヴィアン役の井坂恵、ファーニナル役の小林由樹、ゾフィー役の安井陽子の3人には称賛の拍手。スタンディングオベーションが終わって、オーケストラがひきあげるときには、もう一度拍手が起きた。それは危機を乗り切った新日本フィルへのねぎらいの拍手だった。

 今は日本中で(もしかすると世界各地で)感動的な演奏会がいくつも開かれている。これもその一つ。指揮者とオーケストラの組み合わせが目玉だったが、指揮者が来日しなくなり、大きな傷を負った。また主要歌手5人のうちの4人までも来日しなくなり、このダメージも大きかった。

 この非常事態にあって、上記の人たちが集まり、当初予定されていた初日の公演は見送って、2日目となる公演から幕を開け、なんとか最終日までこぎつけた。わたしは当初予定の3日目となる公演と最終日とをみた。最終日には代役の日本人歌手3人が伸び伸びと歌い、演じているのに感動した。

 公演を支えたのは指揮者のマイヤーホーファーだ。オーストリア生まれのベテラン。このオペラを隅々まで知りぬいている。たとえば、少し地味な箇所だが、第2幕でオクタヴィアンとゾフィーが惹かれ合う場面では、音楽の高揚がじつに丹念に辿られていた。もう一つあげるなら、第3幕のフィナーレで元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱が始まる直前の休止が、息を呑むように絶妙だった。その後の、本作のきかせどころの三重唱、あるいは第1幕フィナーレの元帥夫人のモノローグでは、息の長い豊かな起伏がつけられていた。

 ベテラン歌手のハヴラタは、公演を支えたもう一本の柱だ。第2幕の幕切れで最低音が長く伸ばされるのをきいていると、ほれぼれしてしまった。元帥夫人役のベーンケも、第3幕のフィナーレの凛とした立ち姿が、予定されていた歌手にひけをとらなかった。

 演出はジョナサン・ミラー。2007年の初演もみたので、これで3回目だが、何度みても優れた演出だ。特徴的なのは、第1幕と第2幕では向かって右側、第3幕では左側に大きな廊下をとっていること。そこには召使いやその他の人々が行き来していて、ドラマを物語っている。各幕とも左側の大きな窓から射しこむ外光の変化が美しい。コミカルな演技がふんだんに盛り込まれているのも楽しい。
(2011.4.13&22.新国立劇場)
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