Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

上岡敏之/読響

2012年01月26日 | 音楽
 上岡敏之さんが指揮をした読響の1月定期。最近ではすっかり「上岡さんが振るなら、なにかをする!」と思うようになった。おそらくだれもがそうだろう。今回もそのような聴衆の期待にたがわない演奏会だった。

 1曲目はモーツァルトの交響曲第34番。これは優雅で、過剰なものがなく、生き生きとした演奏だった。テンポもとくに変わってはいない。要するにこういうノーマルな演奏もするのだ、と思わせられる演奏。これはこれでとてもよかった。

 第34番を生で聴くのは何年ぶりだろう。ひょっとすると何十年ぶりかも……。ともかくいつ聴いたのか記憶がない。演奏が始まって「あっ、この曲か」と思ったが、それまではメロディーも浮かんでこなかった。第1楽章の堂々とした出だしは、同じハ長調のピアノ協奏曲第25番を思い出させる。8分の6拍子で3連音のリズムが延々と続く終楽章も面白い。

 第31番「パリ」と第35番「ハフナー」にはさまれた3曲は、演奏機会が少ない分、意外に新鮮さを保っているのかもしれない。聴きごたえも十分だ。

 2曲目はマーラーの交響曲第4番。出だしはごく普通のテンポだ。第1主題を提示して第2主題に移る前に、テンポを急激に上げて、畳みかけるように終わったが、それも一瞬のことで、また元のテンポに戻った。流れのよい演奏だ。弦が大きくポルタメントをつけて、まるで風に吹かれた布が舞うように感じられる箇所があった。唯一変わった点だった。

 ところがこれが予告だった。第3楽章に入ると、上岡節が縦横に展開された。随所にポルタメントがつけられて、目が回るようだ。しかもルフトパウゼ(瞬間的な間合い)が多用されてポツポツと切れる。テンポは遅くて今にも止まりそうだ。消え入るような最弱音は緊張の極みだ。

 今まで聴いたことのない演奏だった。もう驚くばかり。しかも面白い。禁じ手をなに憚ることなく繰り出しているが、少しも下品ではない。むしろ前衛的な感覚が漂う。

 これがライブの面白さだ。「この先どうなるのだろう」というスリル。これはライブでなければ味わえない。上岡さんの面白さ――上岡さんの意義――は、演奏会にライブの面白さを取り戻してくれたことだ。

 第4楽章のソプラノ独唱はキルステン・ブランク。最初は口先だけで歌っている感じがしたが、あれは指揮者との呼吸を測っていたのかもしれない。すぐに豊麗な声が出た。
(2012.1.25.サントリーホール)
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