Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カルテット!人生のオペラハウス

2013年05月14日 | 映画
 映画「カルテット!人生のオペラハウス」を観た。イギリスの引退した音楽家のための老人ホームでの話。ヴェルディが私財を投じてミラノに建てた「音楽家のための憩いの家」がモデルだ。

 ヴェルディの憩いの家は何年か前にNHKテレビで報道された。普段はテレビを見ない生活だが、このときはたまたま旅先で見た。ヴェルディはこんなことをしていたのか、いかにもヴェルディらしいな、と思った。功成り名遂げたヴェルディが、引退して困窮している音楽家のために、自分にできることとして、老人ホームを建てた。すべてを救うことはできないが、せめてできる範囲で、と。

 憩いの家は今も健在だが、この映画では、経営に行き詰まり、その打開のために入居者の老人たちが演奏会を計画する。開催にこぎつけるまでの紆余曲折がユーモアたっぷりに描かれる。

 元プリマドンナのソプラノ歌手ジーン、認知症が始まったアルト歌手シシー、過去に9時間だけジーンと結婚していたテノール歌手レジー、老いてなお色気たっぷりのバリトン歌手ウィルフ。この4人がヴェルディの「リゴレット」からの四重唱(カルテット)を歌うまでの紆余曲折。

 ジーンは過去の栄光にとらわれて、入居者たちとは打ち解けない。昔別れたレジーとのわだかまりもある。そんなジーンが次第に自分の「今」を受け入れる物語でもある。

 演奏会の日、いよいよ出番というその時、シシーの認知症が始まる。「お母さんに呼ばれたから帰る」というのだ。途方に暮れる男性2人。そのときジーンがシシーの肩を抱いて優しくいう、「そうね、帰りましょう」
シシー「バッグも持って行っていいの?」
ジーン「もちろんよ」
シシー「あの大きいのよ」
ジーン「そうよ。でも、帰るのは2週間後なのよ」
シシーは笑顔になってステージに向かう。

 ジーンは成長したのだ。人間いくつになっても成長するのだ。実はこれは小さなエピソードで、本筋ではもう一つのストーリーが進行しているが、それは観てのお楽しみ。

 4人の前に歌う元ソプラノ歌手がいる。ジーンがライバル意識をむき出しにするその歌手は、歌い始めると、すばらしい声。ジーンは思わず息をのむ。往年の名歌手ギネス・ジョーンズだ。1936年生まれだから制作時点で76歳くらいだが、すごい声だ。これがギネス・ジョーンズの「今」なのだろうか。感動的だ。これだけでも感動ものだ。
(2013.5.13.Bunkamuraル・シネマ)
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