Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ナブッコ

2013年05月23日 | 音楽
 新国立劇場の「ナブッコ」。今までこの劇場が制作した公演のなかではトップクラスのひとつだと思う。その理由はいくつかあるが、一番大きな点は、諸要因が絡み合って、この劇場ではまれに見る熱気が舞台に生じたことだ。オペラはこうでなくちゃいけない、と思った次第。

 話題性としてはグラハム・ヴィックの演出が一番だろう。事前に、どのような演出になるかは、緘口令が敷かれたらしい。ヴィック自身が語る最低限のコンセプトは報じられたが、基本的には、劇場に来て、ショックを楽しんでほしいという趣向だ。なるほど、それもいいと思った。わたしが行ったのは二日目なので、初日を観た人のブログなどが出始めたが、あえて読まないでいた。

 開演の45分前に開場したが、そのときはロビーまで。30分前になってドアが開いた。舞台を見てアッと驚いた。高級デパートの売り場が出現していた。着飾った人々が談笑している。そうか、神を忘れたユダヤの民は、ブランド品を買いあさる現代人というわけか――と楽しくなった。そこにナブッコの軍団が乱入する。買い物客を人質にとったテロリスト集団のように見えた。アビガイッレがナブッコを陥れる経過は、テロリスト内部の主導権争いのようだった。

 もっとも、わたしが感心したのは、このような読み替えの一貫性よりも、むしろ読み替えを通して、歌手、合唱、オーケストラ、その他この公演に関わるすべての人々を活性化させたことだ。これがこの公演をこの劇場のいつものレベルを超えるものにした最大の要因だったと思う。

 もう一つの大きな要因は指揮のパオロ・カリニャーニだ。センシティヴかつアグレッシヴな指揮といったらいいか、本気になった指揮というか。こういう指揮を聴いていると、今までこの劇場で聴いてきた指揮者はいかにも安全運転だったように思われた。

 そしてもちろん合唱。序曲が終わって冒頭の合唱で、観客すべての心をつかんだ。その効果は絶大だった。観客の気持ちは一気に舞台に集中した。以降、合唱が大きな役割を果たすこのオペラで、もう一つの主役を演じ続けた。

 最後になったが、歌手。ナブッコ役のルチオ・ガッロは、たぶんこの劇場で出演したすべての役を観ているが、歌、演技ともに今までで一番深みがあった。アビガイッレ役のマリアンネ・コルネッティは、先日の「アイーダ」アムネリスでは不発に終わった観があるが、今回はパワー全開だった。
(2013.5.22.新国立劇場)
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