Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

エリック・サティとその時代展

2015年07月28日 | 美術
 エリック・サティ(1866‐1925)は――比喩的な言い方だが――どこから出てきたのだろう。風変わりな人柄。作曲家としても風変わりだ。拍節感のない音楽、辛辣なパロディ、意図されたチープさ等々。突然こんな作曲家が現れた。そういう風に見える。

 サティには友人が多かった。人を惹きつけるなにかを持っていた。変人だけれども――変人だからこそ――、多くの人を惹きつけた。でも、仲たがいすることも多かった。

 展覧会場を入ってすぐに、サティの肖像があった。キャバレー「シャ・ノワール(黒猫)」のメモ用紙に鉛筆で描いたもの。若いサティ。帽子をかぶり、メガネをかけ、髭を生やしている。2枚目だ。作者名を見て驚いた。ミゲル・ユトリロ。

 ミゲル・ユトリロはシュザンヌ・ヴァラドン(1865‐1938)が18歳のときに生んだ子を(父親がだれかは分かっていない)、後年、認知した画家だ。その子はモーリス・ユトリロと名乗った。画家ユトリロだ。

 デッサンというよりもスケッチだ。制作は1889年。その頃サティとミゲルには交際があったのだ‥。サティがヴァラドンに恋をしたのは1893年。わずか半年で破局を迎えた。でも、サティは夢中になった。生涯で唯一の恋だった。

 もっと驚いた絵がある。五線譜にインクで描いたイラスト。ヴァラドンの肖像だ。作者はサティ。斜め右を向いて、大きな目を開き、口元を閉じている。長い首。気の強そうな顔立ち。1893年の作だ。熱い恋の記録。同年にはヴァラドンもサティを描いている――本展には来ていないが――。いかにも芸術家風のサティだ。

 サティといえば、バレエ「パラード」(1917年)と劇作品「ソクラテス」(1920年)にとどめを刺す。そういってしまうと、反論が出るかもしれない。サティは、聴く人によって好きな作品が分かれるタイプの作曲家かもしれない。各人各様のこだわりがある。

 「パラード」は、台本を担当したコクトーのノートが展示されていた。黒い布張りの大判のノートにびっしり書き込まれている。「パラード」はコクトー主導で生まれた。それが実感できた。

 「ソクラテス」はオーケストラ版の初演のポスターとプログラムが展示されていた。真摯な音楽。透徹した様式感。サティに心酔していたプーランクの「カルメル派修道女の対話」は本作から生まれたと、わたしは思うのだが。
(2015.7.27.Bunkamura)

(※)本展のHP
コメント (4)
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