Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

尾高忠明/日本フィル

2015年12月12日 | 音楽
 尾高忠明が振った日本フィルの定期。地味なプログラムだが、お客さんは結構入っていた。学生さんたちはブラスバンドをやっている人たちだろうか。

 前半2曲はイギリスの音楽。1曲目はジェラルド・フィンジ(1901‐1956)の「クラリネットと弦楽のための協奏曲」。フィンジという作曲家は、数年前までは知らなかった。林田直樹氏のメルマガで初めて知った。

 1949年の作品。急進的な前衛音楽の時代だが、その時代にこういう作品が書かれていたのかと驚くほど、穏やかで、抒情的な作品だ。世界は広いと思う。時代はけっして一色には染まらないものだと思う。広い世界のどこかでは、時代に流されずに自分の世界を守っている人がいるのだなと――。

 クラリネット独奏は日本フィル首席奏者の伊藤寛隆。第1楽章ではヒヤリとすることがあったが、第2楽章からは安定した演奏になった。オーケストラは、イギリス音楽のスペシャリスト尾高忠明の指揮のもと、信頼に足る演奏を繰り広げた。

 緩徐楽章の第2楽章が、弱音が完璧にコントロールされ、抒情的な音の世界に沈潜するような、例えて言うならイギリスの美しい田園地方の黄昏を見るような、そんな雰囲気のある名演になった。

 2曲目はヴォーン・ウィリアムズの「バス・テューバと管弦楽のための協奏曲」。独奏は日本フィルのテューバ奏者、柳生和大。テューバの柔らかな、かつ存在感のある音を楽しんだ。

 プログラム後半はシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレート」。これも名演だった。音がよく整理されていた。尾高忠明の力量だろうが、もう一つは、日本フィルの弦に軽やかさがあり、先月客演したインキネンの余韻のようなものが感じられた。

 オヤマダアツシ氏のプログラム・ノートに、第2楽章は「ベートーヴェンの交響曲第7番(第2楽章のアレグレット)を想起させる。」というくだりがあった。そう言えば、第1楽章のゆったりとした序奏は、ベートーヴェンの同曲の第1楽章の序奏を「想起させる」し、第3楽章の中間部(トリオ)は同曲の第3楽章のトリオを、また第4楽章の弾けるような開始は同曲の第4楽章の開始を「想起させる」。

 この曲はベートーヴェンの交響曲第7番がモデルになっているのかもしれない。この時期、大曲を書く作曲家に変身しようとしていたシューベルトの、努力の痕跡かもしれない。
(2015.12.11.サントリーホール)
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