Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大友直人/日本フィル

2015年12月20日 | 音楽
 今年の日本フィルの横浜定期の「第九」は、前プロにガブリエル・ロベルトという人の新作が初演された。

 ロベルト(1972‐)はイタリア人。ロンドンの王立音楽院の作曲科を修了している。日本では映画音楽の作曲家としての活動が活発だ。「嫌われ松子の一生」(2006年)で渋谷毅と共に日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞している。

 ということを、今回初めて知った。映画音楽の作曲家がクラシックの音楽も作曲するというと、同国人の偉大な先達ニーノ・ロータを想い出す。ニーノ・ロータの場合は先にクラシックの作曲家としての活動が始まり、キャリアの途中から映画音楽に入って成功したが、ロベルトの場合は逆のケースだ。

 今回の新作はトランペット協奏曲《Tokyo Suite》。全4楽章からなり、演奏時間は約18分。日本フィルの客演首席トランペット奏者オッタビアーノ・クリストーフォリ(以下「オッター」)の委嘱。オーケストラは2管編成が基本だが、トランペットを欠く。

 第1楽章が始まる。ジョン・アダムズのような一定のパルスが連続する、明るく、ノリのよいご機嫌な音楽だ。第2楽章は美しい光が射すような抒情的な音楽。オーロラのような移ろいがある。映画音楽的といえるかもしれない。第3楽章はコミカルな音楽。第4楽章には広がりがある。

 オッターは普段から、明るく、軽めの音を持っていて、抜群の安定感を誇るが、今回は珍しくちょっと緊張しているようだった。でも、バリバリ吹きまくる演奏ではなく、しっとりとアンサンブルの中に溶け込む演奏でこの曲の姿をよく表現していた。

 指揮は大友直人。エンタテイメント性があるこの種の曲にはうってつけの人材だ。十分に楽しませてくれた。この曲、できれば東京定期でもやってくれないだろうか。そのときは――もし改訂の余地があるなら――第4楽章の広がりをもっと入念にしてくれたらと、素人ながら思った。

 「第九」では東京音楽大学の合唱団の厚みのある音に惹かれた。青木エマ、小川明子、錦織健、宮本益光の独唱陣も熱演だった。大友直人の指揮は、第1楽章が速めのテンポだったので注目したが、第2楽章以下では普通のテンポに戻った。

 余談だが、第4楽章の途中でトランペット奏者とティンパニを隔てるアクリル板が倒れるハプニングがあった。トランペット奏者が唇を押さえていたが、大丈夫だろうか。
(2015.12.19.横浜みなとみらいホール)
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