Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フィデリオ(ベルリン国立歌劇場)

2016年11月03日 | 音楽
 ダニエル・バレンボイム指揮、ハリー・クプファー演出の「フィデリオ」。歌手陣の豪華さが目を引く。レオノーレがカミラ・ニールント、ピツァロがファルク・シュトルックマン、ロッコがマッティ・サルミネン。以上のヴェテラン勢に加えて、フロレスタンは今が旬のアンドレアス・シャーガー、マルツェリーナは若手のエヴェリン・ノヴァク。新旧の組み合わせの妙がさすがだ。

 サルミネンは、ヴェテランというよりも、超ヴェテランといったほうがよいが、声はまだ出るし、なんといっても存在感が抜きん出ている。人のよさそうな味のあるロッコが、舞台上のアンサンブルの重りになっていた。

 バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリンは、序曲が始まるやいなや、重くずっしりした音を鳴らし、前日に聴いたベルリン・フィルの、今や明るく、シャープになった音との違いを感じさせた。

 序曲は「レオノーレ序曲第2番」が使われた。ベートーヴェンの若書きかもしれないが、ゴツゴツして尖った音楽が、ベートーヴェンの抑えようもない意気込みを感じさせる。頻繁に現れる全休止はブルックナーの先例か。なお、いうまでもないと思うが、第2幕の場面転換での「レオノーレ序曲第3番」の演奏はなかった。

 クプファーの演出は、端的にいって、ベートーヴェンへの敬意に満ちたもの。舞台上には常にピアノが1台あり、その上にベートーヴェンの彫像が置かれている。先ほど触れた序曲の途中の(ドン・フェルナンドの到来を告げる)トランペットの箇所では、ベートーヴェンの彫像にスポットライトが当たった。

 そして第2幕の後半、ドン・フェルナンドの登場の場面からは、舞台はウィーン楽友協会大ホールに変貌した。登場人物一同でベートーヴェンへの賛歌を歌い上げた。じつにストレートな演出だ。わたしは共感した。

 今更いうまでもないが、ベートーヴェンの音楽はなんと崇高なのだろうと思った。精神の崇高さを感じさせる音楽。そんな音楽を書いた人はベートーヴェン以外にはいない。

 世の不正に苦しむ人は(人間社会が続く以上)今後も絶えないだろう。そういう人に生きる勇気を与える音楽。また、ベートーヴェンが、何度も恋愛し、結局一つも実らなかった実人生と引き換えに、人を愛することを歌い上げた音楽。そんな音楽を書いたベートーヴェンへの賛歌にわたしも加わった。
(2016.10.28.ベルリン国立歌劇場)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする