Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2016年11月26日 | 音楽
 ラザレフ/日本フィルの定期のプログラムはショスタコーヴィチとグラズノフという‘師弟プログラム’。いうまでもないが、ショスタコーヴィチのレニングラード音楽院の学生時代に、当時院長だったグラズノフは、ショスタコーヴィチを強力に支援した。ショスタコーヴィチもグラズノフを敬愛した。そんな2人のプログラム。筋が通ったプログラムだ。

 1曲目はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。1948年のジダーノフ批判と切っても切れない関係にあるこの曲を聴きながら、グラズノフは当時すでに亡くなっていたけれど、もし存命だったら、批判の渦中で苦しむ愛弟子を見て、どんなに胸を痛めたことだろうと想像した。

 ヴァイオリン独奏は郷古廉(ごうこ・すなお)。今年23歳の若者だ。ウィーン私立音楽大学で研鑽中とのこと。ショスタコーヴィチの苦しみとか、体制への抵抗とか、そんな屈折した感情よりも、すっきりとスマートにこの曲を弾ききった。存在感は今一歩だが、それは年齢ゆえに仕方がないのか‥。

 アンコールがあるかな、と思ったが、なかった。ショスタコーヴィチのこの曲は大曲なので、アンコールはなくてもよいのだが、わたしにはこのヴァイオリニストのことをもう少し知りたいという気持ちがあった。

 オーケストラのほうは、ラザレフ/日本フィルが積み重ねてきたショスタコーヴィチの名演(4番、6番、8番、9番、11番、15番など)を想い出させる演奏だった。あの名演の数々は、ラザレフが首席指揮者就任直後に取り組んだプロコフィエフとともに、わたしの一生の財産だ。

 2曲目はグラズノフの交響曲第5番。ラザレフは日本フィルの首席指揮者就任以前に、読響を振っていたが、読響でもこの曲を取り上げて名演を残した。ラザレフの得意な曲なのかもしれない。今回も十分に手の内に入った演奏を繰り広げた。

 ラザレフは今回を皮切りにグラズノフを系統的に演奏する予定だ。グラズノフ・ルネッサンスを呼び起こすような名演を期待したい。第5番もそうだが、グラズノフの交響曲は、バレエ音楽の要素を含んだ特異な交響曲ではないかと思う。そのような(他に類例のない)音楽をじっくり味わいたい。

 終演後のラザレフのパフォーマンスは、桂冠指揮者兼芸術顧問になった今も、以前と変わらなかったのが嬉しい。ラザレフは聴衆とコミュニケーションをとるのがうまい。
(2016.11.25.サントリーホール)
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