Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

エレクトラ(ベルリン国立歌劇場)

2016年11月04日 | 音楽
 ダニエル・バレンボイム指揮、亡きパトリス・シェロー演出の「エレクトラ」。ベルリン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、エクサン・プロヴァンス音楽祭、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場、フィンランド国立歌劇場およびバルセロナ・リセウ歌劇場の共同制作。今回はベルリン国立歌劇場での初演だ。

 エレクトラが激しく動き回る。舞台にはつねに複数の人物がいる。だれか一人になることはない。舞台上の動きが止まることもない。苦悩、焦燥、憎悪、絶望、憧れなどの感情が渦巻く。その大きさに圧倒される。

 オペラの中間点、エレクトラの前にオレストが現れ、自分がオレストであることを告げる場面では、エレクトラとオレストの他に、オレストの養育者、第5の下女(5人の下女の中で唯一エレクトラをかばう下女)など数人がそこにいる。各人再会を喜んで抱き合う。喜びの感情が迸る。

 この場面が(ドラマの面でも、音楽の面でも)このオペラの頂点であることがよく分かった。台本ではエレクトラとオレストの2人だけの場面だが、そこに数人の人々を加えることで、エギストとクリュテムネストラの支配下でじっと息を潜めていた人々がいることが強調された。

 そこから先の展開は、この中間点からの帰結だ。クリュテムネストラを殺害するのはオレストだが、エギストを殺害するのは(オレストではなく)オレストの養育者になっていた。復讐を成就した後、エレクトラは(奇怪な踊りなど踊らずに)放心したように座りこむ。オレストは黙って立ち去る。

 わたしは今まで、このオペラの頂点は最後のエレクトラの踊りにあると思っていたが、むしろ緩やかな放物線を描くドラマ構成として捉えるほうが正解かもしれないと気が付いた。

 声楽陣が豪華だった。表題役はエヴェリン・ヘルリツィウス、クリュテムネストラはヴァルトラウト・マイヤー、クリソテミスはアドリアンヌ・ピエチョンカ、オレストはミヒャエル・フォレ。さらに(配役表を見て我が目を疑ったが)オレストの養育者は往年の名歌手フランツ・マツーラ(1924年生まれ!)、クリュテムネストラの腹心の侍女兼監視の女はチェリル・ステューダー。

 バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリンの演奏は、声楽陣に負けず劣らず、雄弁にドラマを語っていた。絶叫するだけではなく、静寂も叙情もある、起伏に富んだ、入念な演奏だった。
(2016.10.29.ベルリン国立歌劇場)
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