Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2018年05月13日 | 音楽
 ラザレフは東京定期ではロシア音楽を系統的に取り上げているが、横浜定期では自由にプログラムを組んでいる。今回はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死が取り上げられた。

 その演奏は、とくに前奏曲のほうで、ラザレフの、ワーグナーのオーケストレーションにたいする興味が窺われた。驚異のオーケストレーションと感じているのではないかと、そう思わせる演奏。一方、音楽の頂点でのオーケストラの豪快な鳴り方は、いかにもラザレフという感じ。

 あえていうなら、冒頭のチェロのフレーズに応答するオーボエに、もっと悩ましさが感じられたら、と思ったことは事実。それはラザレフとか、オーボエ奏者とか、そんなだれの責任というようなことではなく、演奏の練り上げの、より高い目標に向かっての“糊しろ”のような感覚だが。

 2曲目はシューマンのピアノ協奏曲。ピアノ独奏は阪田知樹(さかた・ともき)。フランツ・リスト国際ピアノコンクール優勝。現在24歳。音がきれいなピアニストだ。輪郭がクリアーで澄んだ音。その音で内省的な演奏をする。多くのピアニストが弾き慣れ、多くの聴衆が聴き慣れたこの曲を、初々しい感覚で弾いた。その初々しさが新鮮だ。時々見かける、そのままでCDになりそうな、完璧な演奏を志向するタイプではなさそうだ。

 アンコールにシューマンの歌曲「献呈」をリストがピアノ独奏用に編曲したものが演奏された。その演奏が、リストよりも、シューマンのほうに傾きがちに聴こえたのは、ピアノ協奏曲の余韻が残っていたからだろうか。

 3曲目はチャイコフスキーの交響曲第4番。冒頭のファンファーレが、一気に吹奏されるのではなく、最後の下降音型の手前で(一瞬)ブレスを取るのに驚かされたが、それはともかく、音には張りがあり、充実の極み。全体的にスケールの大きい、地響きがするような演奏は、ラザレフならではだ。

 3部形式で書かれた第2楽章の第3部で、旋律が弦に移り、木管がオブリガートをつける箇所では、弦の音がほとんど、聴こえるか、聴こえないかというくらいまで抑えられ、木管のオブリガートが、露のしずくがこぼれるように、はっきりと演奏された。主客逆転の発想。思わずハッとするような美しさが生まれた。

 アンコールに「くるみ割り人形」からトレパックが演奏された。これも豪快だった。
(2018.5.12.横浜みなとみらいホール)
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