Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「ハマスホイとデンマーク絵画」展

2020年02月07日 | 美術
 最近は人混みが苦手になったので、メジャーな展覧会からは遠ざかっているが、ハマスホイ(1864‐1933)はわたしの好きな画家の一人なので、これはのがすわけにはいかないと、「ハマスホイとデンマーク絵画」展に行った。平日の午前中で、しかも冷たい雨の降る日だったが、それなりの人出があった。

 本展の特徴はハマスホイを19世紀のデンマーク絵画の流れの中で捉えた点だ。それをごく大雑把にいうと、19世紀の前半にデンマーク絵画は「黄金期」を迎え、多くの画家が輩出した。後半に入ると、画家の中には首都コペンハーゲンを離れて、ユトランド半島の北端の寒村スケーインに集う人々が現れた(「スケーイン派」と呼ばれる)。そして世紀末になるとハマスホイの世代が台頭する。音楽でいえば、デンマークの民族性と近代性とを併せもつニールセン(1865‐1931)の世代だ。

 本展ではデンマーク絵画の特徴として「デンマーク人が大切にしている価値観「ヒュゲ」(hygge:くつろいだ心地よい雰囲気)」をあげている。たしかにそうかもしれないと、本展を見て思うが、ハマスホイには「ヒュゲ」に収まらない要素がある。それがハマスホイを同世代の画家から峻別する。

 「ヒュゲ」に収まらない要素とは何か。上掲のチラシ(↑)に使われている作品はハマスホイの「背を向けた若い女性のいる室内」(1903‐04年)(部分)で、キャプションでは「彼の代表作の一つに数えられる」とされている。灰色がかった寒色系のトーン、室内風景、後姿の女性、静謐さなど、ハマスホイの特徴がよく表れた作品だ。

 だが、本作に「ヒュゲ」(くつろいだ心地よい雰囲気)を感じるだろうか。そこに描かれているのは妻のイーダだが、妻と画家との関係には、距離感とか、他者性とかを感じないだろうか。たしかに本作は美しいが、そこには日常的な親密さとは微妙に異なる雰囲気が漂っている。そんな脱・日常性がハマスホイの世界ではないだろうか。

 驚いたことには、本作に描かれたロイヤルコペンハーゲンのパンチボールと錫製のトレイが本展に来ている。パンチボールは直径30㎝ほどだ。それにしては本作では大きく浮き出して見える。画面左上の額縁も、壁の白い縁飾りと相似形をなすためだろうが、奇妙に大きく見える。

 結果的に本作は、壁と額縁とパンチボールを描いた画面に女性の後姿を重ねたコラージュ作品のように見える。2枚の遠近感の異なるシートの重なり合いのような要素が、わたしを落ち着かなくさせる。
(2020.1.28.東京都美術館)
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