水戸芸術館で「3.11とアーティスト:10年目の想像」展が開催中だ。亡き吉田秀和が館長として深くかかわり、また水戸室内管弦楽団が定期的に演奏会を開いているので、全国の音楽ファンにはなじみの同館だが、わたしは行ったことがなかった。そこで吉田秀和を偲ぶ意味もあって、同館を訪れた。
東日本大震災のときには同館も大きな被害を受けた。また被災者の避難所にもなった(あまり語られることはないが、東日本大震災においては、岩手、宮城、福島の東北3県だけではなく、茨城県も被害が大きかった)。
吉田秀和は4月1日に水戸に入り、職員全員を集めて話をした。その内容が「吉田秀和――音楽を心の友と」(音楽之友社、2012年12月発行)に抜粋して収められている。吉田秀和はまず「やっと今日、あなた方にお会いできて、私はうれしいです。もう少し早く来たかった」と切り出して、こう語っている。
「今度の災害で、僕が思ったのは、あんなに巨大な地震が来て、あんなに大きな津波が来るというのは、想定外だと言っているけれど、でも日本にも何人か学者もいるでしょうし、あれだけの危険なエネルギーの源泉を日本のこの狭い国土のあちこちに建てるについては、やっぱり国民の生命と財産の安全に責任を持った上でした仕事だろうに、想定外と言うことで間に合わせるような気風を見ていると、その人たちを責めるというよりも、やっぱり僕たち、日本人全体として、イマジネーション、貧弱だったのかな」と。
吉田秀和はそこから話を進めて、想像力をつちかい、自分を豊かにする大切さを説いている。吉田秀和は翌年5月22日に亡くなった。その前年の話だ。当時、吉田秀和は97歳。高齢だが、クリアーな話に感銘を受ける。
現在開催中の「3.11とアーティスト:10年目の想像」展の「想像」は、その吉田秀和の話に端を発しているのではないかと感じる。そうだとすると、吉田秀和の遺志がいまも同館の職員に受け継がれていることになる。本展は東日本大震災から10年目の、アーティストから被災者への応答であるとともに、同館職員から吉田秀和への応答でもあるだろう。
本展は5人と2組のアーティストの作品からなる。どれもなんの予備知識もなく、ふらっとその場に行って、なにかを感じればよい作品だ。わたしは小森はるか+瀬尾夏美の映像作品「二重のまち」をじっくり見た。若者4人が被災地を訪れて、被災者の話を聞きながら、物語「二重のまち」を内面化する過程を追った作品だ。記憶の継承の困難さと、それにもかかわらず手間暇かけて継承する尊さを考えさせられた。
(2021.3.24.水戸芸術館)
(※)水戸芸術館のHP
東日本大震災のときには同館も大きな被害を受けた。また被災者の避難所にもなった(あまり語られることはないが、東日本大震災においては、岩手、宮城、福島の東北3県だけではなく、茨城県も被害が大きかった)。
吉田秀和は4月1日に水戸に入り、職員全員を集めて話をした。その内容が「吉田秀和――音楽を心の友と」(音楽之友社、2012年12月発行)に抜粋して収められている。吉田秀和はまず「やっと今日、あなた方にお会いできて、私はうれしいです。もう少し早く来たかった」と切り出して、こう語っている。
「今度の災害で、僕が思ったのは、あんなに巨大な地震が来て、あんなに大きな津波が来るというのは、想定外だと言っているけれど、でも日本にも何人か学者もいるでしょうし、あれだけの危険なエネルギーの源泉を日本のこの狭い国土のあちこちに建てるについては、やっぱり国民の生命と財産の安全に責任を持った上でした仕事だろうに、想定外と言うことで間に合わせるような気風を見ていると、その人たちを責めるというよりも、やっぱり僕たち、日本人全体として、イマジネーション、貧弱だったのかな」と。
吉田秀和はそこから話を進めて、想像力をつちかい、自分を豊かにする大切さを説いている。吉田秀和は翌年5月22日に亡くなった。その前年の話だ。当時、吉田秀和は97歳。高齢だが、クリアーな話に感銘を受ける。
現在開催中の「3.11とアーティスト:10年目の想像」展の「想像」は、その吉田秀和の話に端を発しているのではないかと感じる。そうだとすると、吉田秀和の遺志がいまも同館の職員に受け継がれていることになる。本展は東日本大震災から10年目の、アーティストから被災者への応答であるとともに、同館職員から吉田秀和への応答でもあるだろう。
本展は5人と2組のアーティストの作品からなる。どれもなんの予備知識もなく、ふらっとその場に行って、なにかを感じればよい作品だ。わたしは小森はるか+瀬尾夏美の映像作品「二重のまち」をじっくり見た。若者4人が被災地を訪れて、被災者の話を聞きながら、物語「二重のまち」を内面化する過程を追った作品だ。記憶の継承の困難さと、それにもかかわらず手間暇かけて継承する尊さを考えさせられた。
(2021.3.24.水戸芸術館)
(※)水戸芸術館のHP