Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

田中祐子/日本フィル

2021年05月22日 | 音楽
 元々はインキネンが振るはずだった演奏会だが、指揮者もプログラムも変更になった。指揮者は田中祐子。名前は時々見かけるが、聴くのは初めてだ。プログラムは後述するが、ドイツ音楽の王道プログラム。田中祐子にとっては、このようなプログラムを振るのは大きなチャンスだろう。

 1曲目はワーグナーの「ジークフリート牧歌」。大きな起伏にも、細かなニュアンスにも事欠かない演奏だった。田中祐子は指揮棒を持たない指揮者だ。手首の柔らかい動きでオーケストラから神経のかよった音を引き出した。

 2曲目はブラームスのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は神尾真由子。「ジークフリート牧歌」の囁くような演奏から一転して、この曲では神尾真由子のパワフルな演奏が炸裂した。反面、オーケストラは、第1楽章と第2楽章では大人しかった。第3楽章ではよく鳴ったので、指揮者の全体設計だったのだろう。

 休憩をはさんで、3曲目はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。冒頭の主題からして気合の入った演奏だった。ティンパニがパンチの効いたアクセントを打ち込み、それが音楽に弾みをつけた。わたしは若き日の広上淳一のベートーヴェンの交響曲第7番(定期会員向けにライブ録音がCD化された)を思い出した。田中祐子は小柄だが、その小柄な体を目いっぱい使ってオーケストラに挑む。飾らない本音の音楽。それも若き日の広上淳一を思わせた。田中祐子には力みがないのも長所だ。このまま伸びてほしい人材だ。

 女性指揮者が当たり前の時代になった。一昔前は、女性指揮者というと、男勝りのタイプとか、逆に女性性を前面に出すタイプとかもいたが、いまでは性別に関係なく自分の音楽をやるようになった(と思いたい)。まちがいなく、田中祐子はその一人だろう。

 当日はアンコールが演奏された。知らない曲だったが、楽しい仕掛けがあった。曲の終わりのほうに長い休止があり、そこで聴衆の拍手を誘う。案の定、聴衆からは拍手が起きた(わたしも拍手をした)。田中祐子は演奏終了後、オーケストラに向かって「やった!」とガッツポーズ。オーケストラからも笑顔が漏れた。曲はハイドンの弦楽四重奏曲第30番「冗談」の第4楽章(オーケストラ編曲)だった。

 わたしは以前に聴いた鈴木雅明指揮東京シティ・フィルのハイドンの交響曲第90番を思い出した(2009年3月19日)。あの曲には最後に偽休止があり、終わったと思った鈴木雅明が舞台のそでに引っ込んだが、オーケストラは演奏を継続し始めたので、鈴木雅明が慌てて舞台に戻るという楽しい演出があった。
(2021.5.21.ミューザ川崎)
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