Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ブラームス室内楽マラソンコンサート

2022年03月14日 | 音楽
 数時間以内にロシア軍のキエフ総攻撃が始まるか、という観測が流れる中、「ブラームス室内楽マラソンコンサート」に出かけた。午前10時半から午後9時半まで丸一日のコンサートだ。休憩になるとスマホでニュースをチェックした。結局総攻撃のニュースは入らず、まずは良かったが、今後どうなるか。

 当コンサートは諏訪内晶子が芸術監督をつとめる「国際音楽祭NIPPON2022」の一環だ。曲目をまずいうと、3曲のピアノ三重奏曲、ホルン三重奏曲、2曲の弦楽六重奏曲、3曲のピアノ四重奏曲、ピアノ五重奏曲、2曲の弦楽五重奏曲、クラリネット三重奏曲、クラリネット五重奏曲の計14曲。ブラームスの室内楽曲は全部で24曲あるので、その約6割が演奏された。演奏者は総計18人(ピアノ三重奏団「葵トリオ」を3人とカウント)。それらの演奏家が組み合わせを変えながら14曲を演奏し続けた。

 行く前は、一日中ブラームスを聴いていられるか、途中で眠くならないか、と心配だったが、結果的にはほとんど眠らなかった。演奏が良かったからだろう。どの演奏者もやる気十分だ。しかも曲によって演奏者が変わるので、一回限りの組み合わせで曲に取り組む、その化学反応といったらよいか、その場限りの演奏の個性に惹かれた。

 一番感銘を受けたのは、葵トリオに読響のソロ・ヴィオラ奏者の鈴木康浩が加わったピアノ四重奏曲第1番だ。葵トリオの鉄壁のアンサンブルに鈴木康浩が寸分の隙もなく入りこみ、見事に一体化したアンサンブルでこの曲のすべてを描き出した。

 2曲の弦楽五重奏曲も良かった。第1番ではヴァイオリンがマーク・ゴトーニ(ベルリン芸術大学ヴァイオリン科主任教授)と小林美樹、ヴィオラが田原綾子と村上淳一郎(N響首席ヴィオラ奏者)、チェロが上野通明。ゴトーニの音には日本人の演奏家とは一味違う底深さがある。わたしが当コンサート全体を通して注目した一人だ。そのゴトーニに加えて、この演奏では各人の力量が均衡し、とくに第2ヴァイオリンに小林美樹、第2ヴィオラに村上淳一郎が入ったことにより、それらのパートに積極性が生まれ、結果、演奏全体が目をみはるほどの強い個性を主張した。

 第2番も負けず劣らず良かった。ヴァイオリンが米元響子と小川響子(葵トリオのヴァイオリン奏者)、ヴィオラが村上淳一郎と鈴木康浩、チェロが辻本玲(N響首席チェロ奏者)。アンサンブルのまとまりという点では、こちらのほうが安心して聴けた。第3楽章の中間部の入りのところで何かアクシデントがあったかもしれないが、演奏全体を傷付けることはなく、熱量の高い名演になった。個別の奏者では、第1楽章の冒頭で主題を弾く辻本玲のしっとりしたチェロが記憶に残る。
(2022.3.13.東京オペラシティ)
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