Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 吉村結実オーボエ・リサイタル

2022年04月20日 | 音楽
 東京オペラシティのB→CシリーズにN響の首席オーボエ奏者・吉村結実が出演した。プログラムはクープランから始め、バッハで終わるもので、そのあいだにフランス近代・現代の諸作品がはさまれた。吉村さんのルーツはフランス音楽にあるようだ。

 冒頭のクープランの「趣味の融合または新しいコンセール」第7番ト短調は、いかにもクープランらしい優雅な曲だが、吉村さんのオーボエよりも、むしろ桒形亜樹子(くわがた・あきこ)さんのチェンバロに耳を奪われた。楽器の特性上音量が小さく、演奏も控えめだったが、心地よいテンポを刻んだ。

 2曲目はラヴェルの「ソナチネ」。原曲はピアノ独奏曲だが、ダヴィット・ワルターという人のオーボエとピアノのための編曲版で演奏された。吉村さんのオーボエは一転して、水を得た魚のように精彩を放った。第1楽章と第2楽章では自然な呼吸感で歌い、第3楽章では無数の音を目まぐるしく駆け上がり、駆け下りた。ピアノ伴奏の大堀晴津子(おおほり・せつこ)さんの演奏もスリリングだった。

 3曲目はティエリー・ペクー(1965‐)の「オーボエ・ソナタ」。未知の作曲家の作品だが、おもしろかった。第1楽章はノリが良く、第2楽章は切々とした歌があり、第3楽章は拡大されたカデンツァのようだった。現代音楽というよりも、(ポップスというのではないが)わかりやすい音楽だ。とくにピアノ・パートがおもしろかった。

 休憩後はキャラクター・ピースが何曲か並んだ。フィリップ・エルサン(1948‐)の「シェーナイ」とジョリヴェの「オリノコ川の丸木舟を操る人の歌」は、ともにエキゾチックな小品だ。メシアンの「ヴォカリーズ・エチュード」(原曲は声楽曲だが、オーボエ用に編曲)は優美な曲で、少しもメシアンらしくない。

 次のジョルダン・ギュドファン(1988‐)の「白鳥の歌」は、歌と素早い動きが組み合わされた、典型的なフランス近代の(たとえば六人組の)音楽のように聴こえた。まだ若い人なのに(というか、今時の若い人らしく、というべきか)、現代音楽のとげとげしさとか、そんな既成概念とは別の、もっと一般受けする音楽のようだ。

 最後にバッハの「パルティータ ト短調 BWV1013」(原曲は無伴奏フルート・パルティータ イ短調)が演奏された。第3楽章サラバンドの、リラックスした部分での上質な音楽と、テンションが高まる部分での密度の濃さが、とくに印象的だ。バッハをふくめたプログラム全体からは、吉村さんの素直な音楽性が伝わった。N響で聴いているだけでは、吉村さんがどういう演奏家か、よくわからなかったが、今回それがわかった。
(2022.4.19.東京オペラシティ・リサイタルホール)

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