Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト音楽祭の想い出

2023年08月06日 | 音楽
 バイロイト音楽祭に行くことは長年の夢だった。それが叶ったのは現地のバイロイト友の会に入っている友人のおかげだった。2枚当たったので、1枚譲ってくれた。喜び勇んで出かけた。ティーレマンが指揮する「リング」の最終チクルスだった。滔々と流れる音楽に圧倒された。2010年のことだ。

 それ以来3年続けて出かけた。最初は戸惑った祝祭劇場の特殊な音響にも慣れた。4年目にも誘ってもらったが、断った。友人がチケットを取るのはいつも8月下旬の公演なのだが、その時期はサントリーホールのサマーフェスティバルと重なるので、4年目はそちらを選んだ。以降バイロイト音楽祭のチケットはまわってこなくなった。それは覚悟していた。

 というわけで3年間バイロイト音楽祭に通ったのだが、ワーグナー上演はもとより、バイロイトの町にもたくさんの想い出が残った。それを書いてみたい。

 音楽祭の時期にはホテルの値段は高騰するのだが、友人は市外のガストホーフを取ってくれた。ガストホーフとは1階がレストラン兼居酒屋で2階が宿泊室の宿屋だ。市内のホテルとくらべて割安だ。もちろん宿泊室は清潔だが、シャワーとトイレは共同だった。それが苦になる人もいるだろうが、わたしは平気だった。祝祭劇場との距離は市内のホテルと変わらない。ただ歩くルートが畑の中だ。草の香りが心地よかった。不思議なもので、バイロイトというとまず思い出すのは草の香りだ。

 そのガストホーフは、オペラが終わって帰ると、もう1階の居酒屋は閉まっていた。友人と「なんて商売っ気のない親爺だろう」と文句をいいながら、向かいのガストホーフに行った。そちらは夜遅くまでやっていた。ビールを飲みながら語り合った。楽しい想い出だ。3年目は友人がチケットを2枚譲ってくれたので、妻と行った。白状すると、「トリスタンとイゾルデ」を観ているとき、途中で暑くてたまらなくなった。祝祭劇場には冷房がないのだが、そのときの席は上階だったので、熱がこもるようだった。幕間に妻と退出して、例のガストホーフに一目散。冷えたビールで人心地がついた。

 バイロイトなんて何もない田舎町ですよ、という人がいる。たしかにそうかもしれないが、落ち着いたドイツらしい町だと思う。何もないとはいうが、ワーグナーの大邸宅「ヴァンフリート」があるし、バロック様式の美しい「辺境伯歌劇場」もある。そのような観光スポットもさることながら、ただぶらぶら歩くだけでもいい。それが田舎町の良さだ。

 もうバイロイトに行くことはないと思う。妻が体調を崩して数年になるので、妻はもちろん、わたしも妻を残して遠出は無理になった。人生の不可逆性を思う。
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