Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フェスタサマーミューザ:ヴァイグレ/読響

2023年08月02日 | 音楽
 フェスタサマーミューザに読響がヴァイグレの指揮で登場した。プログラムはベートーヴェンの交響曲第8番とワーグナー(デ・フリーヘル編曲)の楽劇「ニーベルンクの指輪」~オーケストラル・アドヴェンチャー。ヴァイグレのワーグナーを聴いてみたくて行った。

 とはいえ、不安もあった。フリーヘルのこの編曲はすっかり人気作になった感があるが、わたしはあまり満足していないからだ。なぜかというと、「ラインの黄金」は比較的丁寧に音楽を追っているが、『神々のヴァルハラ城への入城』から一気に「ワルキューレ」の『ワルキューレの騎行』に飛ぶので(ジークムントとジークリンデのエピソードはカットされている)唐突感を否めないことと、「ジークフリート」の最後の『ブリュンヒルデの目覚め』が比較的たっぷり描かれるので、そこに停滞感を生じるからだ。

 とはいえ(再度の、とはいえ、だが)抜粋版なので、不満は人それぞれあるだろうし、すべての人を満足させるわけにはいかないが。

 さて、長々と書いてしまったが、なぜ書いたかというと、ヴァイグレ指揮読響の演奏を聴いて、上記の不満がなかったわけではないが、それを上回る「リング」を聴いたという満足感があったからだ。劇場で観ているときの血沸き肉躍る感覚がよみがえり、最後の『ブリュンヒルデの自己犠牲』では深い感動に浸った。それはわたし自身意外だった。

 そのような満足感を覚えたのは、ヴァイグレの指揮のおかげだろう。「リング」を隅々まで知っていることはもちろんだが、そのような指揮者にはかえってやりにくいのではないかと思える抜粋版を、雄弁に流れ良く演奏しただけではなく、クライマックスを急がずに、じっくり構えて聴衆の集中力を引き付け、その頂点で決定的な一撃を打つ。その呼吸がいかにも劇場的なのだ。

 もう何度も聴いた気がするこの編曲が、これほど「リング」の世界を実感させたことは今までなかったと、わたしは思ったし、たぶん多くの方々も同じだったろう。会場の沸き方やSNSでの好評ぶりからそう想像する。個別の奏者では「ジークフリート」で大蛇を呼び出すジークフリートの角笛を吹いたホルン首席奏者の松坂さんがすばらしかったことは、皆さんが指摘する通りだ。

 なお1曲目のベートーヴェンの交響曲第8番は、もちろんピリオド系のスタイルではなく、かといって重厚でもない、素直で溌溂とした演奏だった。強弱の振幅が大きく、その一方で安定感がある。新奇なところはないが、マンネリに陥らず、今の時代の空気を吸う誠実な演奏だ。そのような演奏を一言で何といったらよいのだろう。うまい言葉が見つからないのがもどかしい
(2023.8.1.ミューザ川崎)

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