東京都美術館でマティス展が開かれている。パリのポンピドゥー・センターの作品を主体にマティス(1869‐1954)の作風の変遷をたどる展示だ。マティスの代表作も多い。以下、とくに強い印象を受けた作品の3点に触れたい。
まず「豪奢Ⅰ」(1907)(画像は本展のHP↓で)。画集では見たことがあるが、実際に見るのは初めてだ。これほど大きな作品だとは思わなかった。縦210㎝×横138㎝の堂々たる作品だ。主張の強さを感じる。それはどんな主張か。画面にむかって左側のひときわ大きな女性の、挑戦的ともいえる傲然とした風情が印象的だ。安易に近寄ると撥ねつけられる思いがする。親しみやすさや感情移入を拒むものがある。
その女性を直角三角形の垂直線にして、底辺に一人、斜辺に一人の女性が描かれる。底辺の女性は垂直線の女性の脱ぎ捨てた衣服を片付ける。斜辺の女性は垂直線の女性に花束をささげる。二人の女性は垂直線の女性の侍女のように見える。では、垂直線の女性は女主人か。ヴィーナス誕生のヴァリエーションのようにも見える。
おもしろいのは、絵の具の塗り方にムラがあることだ。丁寧な塗りではない。一気呵成に描いたような荒々しさがある。丁寧な塗りを拒む何かがマティスの中に煮えたぎる。それは苛立ち、憤怒、衝動のようなものか。
わたしが惹かれた作品は「夢」(1935)だ(画像は本展のHP↓)。青いシーツの上で眠る女性の裸の上半身が描かれる。ある種の絶対的な安らぎが感じられる。武満徹が触発されてピアノ曲を書いたルドン(1840‐1916)の「閉じた眼」(1890)を彷彿させる。
両腕が不自然に大きい。頭にくらべてアンバランスだ。だが、その両腕の、とくに右腕を描く伸びやかな曲線がポイントだろう。その曲線を描くためには頭とのバランスなど意に介さない。興味深いことには、右腕のわきに描き直された跡が残る。マティスは右腕の位置をどうするか、試行錯誤したようだ。最終的にいまの位置になった。これでよし、と。
チラシに使われている作品は「赤の大きな室内」(1948)だ(本展のHP↓に画像も)。赤い透明な色面に黒い輪郭線を引いたような作品だ。たとえば画面にむかって右側の四角いテーブルは、天板も脚も背景と同じ赤色なので、透けて見える。椅子の座面も同様だ。物質感が喪失して一種の透明感がある。おもしろいことに、丸テーブルの左の脚の付け根のところに描き直された跡がある。マティスは本作品にも試行錯誤の跡を残した。2点の画中画、2脚のテーブル、2枚の敷物などなど、バルトークの「対の遊び」(「管弦楽のための協奏曲」の第2楽章)を思わせる作品だ。
(2012.5.1.東京都美術館)
(※)本展のHP
まず「豪奢Ⅰ」(1907)(画像は本展のHP↓で)。画集では見たことがあるが、実際に見るのは初めてだ。これほど大きな作品だとは思わなかった。縦210㎝×横138㎝の堂々たる作品だ。主張の強さを感じる。それはどんな主張か。画面にむかって左側のひときわ大きな女性の、挑戦的ともいえる傲然とした風情が印象的だ。安易に近寄ると撥ねつけられる思いがする。親しみやすさや感情移入を拒むものがある。
その女性を直角三角形の垂直線にして、底辺に一人、斜辺に一人の女性が描かれる。底辺の女性は垂直線の女性の脱ぎ捨てた衣服を片付ける。斜辺の女性は垂直線の女性に花束をささげる。二人の女性は垂直線の女性の侍女のように見える。では、垂直線の女性は女主人か。ヴィーナス誕生のヴァリエーションのようにも見える。
おもしろいのは、絵の具の塗り方にムラがあることだ。丁寧な塗りではない。一気呵成に描いたような荒々しさがある。丁寧な塗りを拒む何かがマティスの中に煮えたぎる。それは苛立ち、憤怒、衝動のようなものか。
わたしが惹かれた作品は「夢」(1935)だ(画像は本展のHP↓)。青いシーツの上で眠る女性の裸の上半身が描かれる。ある種の絶対的な安らぎが感じられる。武満徹が触発されてピアノ曲を書いたルドン(1840‐1916)の「閉じた眼」(1890)を彷彿させる。
両腕が不自然に大きい。頭にくらべてアンバランスだ。だが、その両腕の、とくに右腕を描く伸びやかな曲線がポイントだろう。その曲線を描くためには頭とのバランスなど意に介さない。興味深いことには、右腕のわきに描き直された跡が残る。マティスは右腕の位置をどうするか、試行錯誤したようだ。最終的にいまの位置になった。これでよし、と。
チラシに使われている作品は「赤の大きな室内」(1948)だ(本展のHP↓に画像も)。赤い透明な色面に黒い輪郭線を引いたような作品だ。たとえば画面にむかって右側の四角いテーブルは、天板も脚も背景と同じ赤色なので、透けて見える。椅子の座面も同様だ。物質感が喪失して一種の透明感がある。おもしろいことに、丸テーブルの左の脚の付け根のところに描き直された跡がある。マティスは本作品にも試行錯誤の跡を残した。2点の画中画、2脚のテーブル、2枚の敷物などなど、バルトークの「対の遊び」(「管弦楽のための協奏曲」の第2楽章)を思わせる作品だ。
(2012.5.1.東京都美術館)
(※)本展のHP