Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

山田和樹/日本フィル

2025年01月19日 | 音楽
 山田和樹指揮日本フィルの東京定期。1曲目はエルガーの「威風堂々」第1番。日本フィルが良い音で鳴っている。最後は山田和樹が、どこから持ち出したのか、両手に鈴を持って振り鳴らす。最後の音が鳴り終わらないうちに、山田和樹が聴衆に拍手をうながす。わたしは感動した。それでいいのだ。感動したら、最後の音が鳴り終わらなくても、感動を拍手で表現してよいのだと。そんな自由さが懐かしかった。

 2曲目はヴォーン=ウィリアムズの「揚げひばり」。ヴァイオリン独奏は周防亮介。全身銀色に輝く衣装を着けて現れた。ポップス音楽のスターのようだ。びっくりした。もちろん演奏は周防亮介らしいナイーヴなもの。とくに最後の、オーケストラが沈黙して、独奏ヴァイオリンだけが遠くから聴こえる小さな鳴き声のように“囀り続ける”部分では、息をのむ想いがした。

 アンコールにパガニーニの「イギリス国歌God Save the Kingの主題による変奏曲」が演奏された。当夜はイギリス音楽プログラムなので、その関連の選曲だろう。「揚げひばり」とはうって変わって、外向的で華麗な演奏だった。

 3曲目はエルガーの交響曲第2番。じっくり腰を据えてこの大曲を歌いつくす演奏だ。とくに印象に残った点は、ゆったりと歌い続けるこの曲で、時折現れる表情の陰りが、じつに的確に表現されたことだ。穏やかな音楽の流れの中で時折ふっと表情が暗転する。その瞬間が第1楽章から頻出する。そのときの色彩の変化が細やかに表現された。

 そのような表情の陰りは、葬送行進曲風の第2楽章で全開した。一方、第3楽章スケルツォの末尾ではスリリングな展開に目をみはった。山田和樹のオーケストラの卓越したドライブ感が現れた一例だ。第4楽章では豪快な演奏が展開した。一転してコーダでは、緊張感のある静寂が訪れた。最後の音が鳴り終わった後も、会場はじっと息をひそめた。1曲目の「威風堂々」第1番とは対照的だ。

 日本フィルは総体的に見事な演奏だった。その中でも弦楽パートの厚みのある音が印象的だった。インキネンの軽い音、カーチュン・ウォンのシャープな音とはちがい、厚みのある暖かい音だ。その音で濃密な表現を聴かせた。

 カーテンコールでは、当演奏会で退団するホルンの宇田紀夫さんに花束が贈られた。宇田さんは日本フィル在籍42年で、かつインスペクター(楽員代表として指揮者と打合せをする役職)を35年務めたという。山田和樹がそれを開演前のプレトークで紹介した。カーテンコールでは聴衆も惜しみない拍手を送った。
(2025.1.18.サントリーホール)

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