日々の恐怖 4月2日 骨董屋
私の母の知人Aさんが体験した話です。
Aさんは友人のJさんと、ある街へと観光へ行った。
坂の多いその街で二人で散策中、こじんまりとした骨董屋を見つけたので立ち寄ってみた。
店内は古めかしい品物が所狭しと陳列されていて埃っぽい。
一通り物品を眺めて、骨董屋を後にした。
その後、しばらくして、AさんはJさんの様子のおかしなことに気がついた。
心配となり、訳をたずねると、
「 骨董屋から子供のような者がついて来ている。
しかし、そのうちいなくなると思うから大丈夫。」
そう、Jさんは答えた。
普段通りの口調だった。
Aさんは、Jさんに霊感のあることを昔から知っていた。
また、このような話題には深く立ち入らぬほうが賢明なことも、感覚的に分かっていた。
そこで、
「 そうなんだ・・。」
と、話を流したという。
その後、Jさんからも、骨董屋やそこからついて来た者の話題が上がる事もなく、直後の不安気な空気も徐々に薄まり二人は通常通りの観光にいそしんだ。
夜は、街の旅館のお世話となった。
夕食と風呂の後、二人はすぐに寝床についた。
疲れていたのか、双方ともすぐに寝入ったという。
Aさんが目を覚ましたのは、午前2時を過ぎた頃だった。
原因は、Jさんの唸り声。
隣を見ると、苦悶の表情を浮かべるJさんの姿があった。
その様子があまりにも苦しそうだったので、Aさんは微睡みから一気に目が覚め、Jさんの肩に触れた。
Aさんは、寝汗を掻き熱っぽい。
それで、起こそうとして肩を揺すった。
しかし、いくら起こそうとしても、Jさんは辛そうに顔をしかめたまま、うなされ続けている。
それでも、AさんはJさんの身体を必死に揺すった。
そうこうしている最中、Aさんは自室から妙な音が響いていることに気付いた。
Jさんを揺するのをやめ、音のする方向を見る。
すると、窓に据え付けてあるカーテンが揺れていた。
大きくなびいて、ストンと落ちる。
再び、大きくなびいて、ストンと落ちる。
カーテンは、それを幾度と無く繰り返していた。
そして、その揺れに合わせるかのように音が部屋中に響いてくる。
ひゅーーーーーっ、ぱんっ!
ひゅーーーーーっ、ぱんっ!
ひゅーーーーーっ、ぱんっ!
それは、花火を打ち上げる際の音にそっくりだったという。
音に気を取られながら、何がカーテンを動かしているのか確認しようとした。
“ もしかすると、風が吹き込んで来ているだけかもしれない。”
そんなことを考えていたAさんは、揺れ動くカーテンの裏に何かがいるのを認めた。
子供だった。
カーテンが大きくたわむと、その間から子供の姿が見えるのだ。
直感的に男の子だと分かった。
その男の子を確認しようとAさんは目を凝らした。
カーテンの隙間から男の子の顔が覗く。
Aさんの認めた男の子の相貌は、酷く崩れていた。
焼けただれているのか、腐敗しているのかは分からない。
しかし、それが原型を留めぬほどに朽ち果てていることは確かだった。
しかし、不思議と怖い感じはしなかったという。
それとは逆に、強烈な悲哀がAさんに流入してきた。
Aさんは気付いたら、わんわんと泣いていた。
何故、こんなにも悲しいのかわからなかった。
どのくらい時間が経ったのだろうか、ふと我に返ると例の音もカーテンの揺れも男の子もいなくなっていた。
いつの間に起きたのかJさんが、窓を遠い目で見ながら言った。
「 帰って行ったよ。」
Aさんは、あの男の子が何だったのか未だに分からないそうだ。
Jさんにも、結局聞けず仕舞いだったという。
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