大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月5日 チキン南蛮

2013-04-05 19:46:19 | B,日々の恐怖





   日々の恐怖 4月5日 チキン南蛮





 その日のSさんは疲れていたそうだ。
昼から続いた打ち合わせ、会社に戻ってからの事務処理。
飯の時間もないほどの忙しさで、会社を出る頃にはすでに十時を回っていた。
駅前のガストでチキン南蛮を食べよう、満員電車の吊り革に掴まりながらSさんの腹は決まっていた。
 最寄りの駅に着いた。
急ぎ足で目当ての店に向かう。
入り口を塞ぐように、自転車を片手で抑えながら電話している女がいたという。
 女が耳に当てているのは紙コップだった。
コップの底には糸が出ており、先はガストの看板に繋がっていたという。

「 でさぁ、彼がいなくなってさぁ。
笑っちゃうんだけど、骨がさぁ、骨が見えるのよぉ。」

窓から、怯えた目をする店員が見えた。
 Sさんは逡巡した末、声をかけた。

「 ちょっと、どいてもらえませんか?」

女はゴミに群がるカラスを見るような目つきでSさんを見たという。
あの、害獣に向けるような、一切の容赦のない“消えればいいのに”というあの目つきだった。

「 笑うついででさぁ。
また笑っちゃうんだけど、私のとこにくんだよね。
みんな、ころしてやるよ。」

女の声は掠れた低い声だったという。
Sさんは回れ右をして、立ち食い蕎麦で夕飯を終えた。
東京ってやっぱ怖いわ、長野出身のSさんは深い溜息をついた。

















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