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日々の恐怖 4月26日 手

2013-04-26 18:58:17 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月26日 手







 叔父から聞いた話を紹介したいと思います。
おそらく二、三十年前、叔父が様々な地方を巡って仕事をしていたころ、ある地方都市で一週間、ビジネスホテルで生活しながら働くことになった。

 叔父はそのホテルの近くに、変わった古着屋が建っているのを見つけた。
そこは一階が古着屋、中の階段を上がった二階がレコード屋になっている店で、二階に中年のおじさん、一階に若い店員がいたという。
店の雰囲気から、中年のおじさんの方が二つの店の店主らしい。
どちらも古びた洋風の内装とやや暗い照明で、扱っている品とはギャップのある、レトロというよりアンティーク調の不思議な雰囲気を出していたという。
 そこの店では、叔父の好きな六、七十年代の洋楽がいつも流れていた。
有線か、店主が趣味で編集したテープを流しているのだろうと叔父は思った。
叔父は古着に興味はなかったが、レコードと店の雰囲気で通っていた。

 叔父は仕事の最終日に、レコードでも何枚か買っていこうと思い、夜その店に行った。
店に入ると、今日並べたばかりらしい古びた感じのジャケットが売られていた。
 普段そんなものを着ないはずの叔父は、何故か妙に惹かれてそれを眺めていた。
ちょうどその時、聞き覚えのある音楽が流れてきた。
しかし、叔父はその曲の名前が頭に浮かんでこなかった。
(聞いてみると、「ブッチャーのテーマが入ってたやつの南国リゾート風の曲」と言っていたので、多分ピンク・フロイドの『サン・トロペ』)
叔父は少し悩んだ後、上のレコード屋で確認しようと階段に目を向けた。
 すると、階段の横の壁に見たことのない穴が開いていた。
床から少し上の所を、爪先で何度も蹴って開けたようなでこぼこした横長の穴だった。
叔父は一瞬戸惑ったが、普段はそこに段ボール箱が置いてあるので分からなかったことに気付いた。
 しかし、何故壁を直さずに段ボール箱を置くだけで済ますのか。
不思議に思いながら階段へ行こうとした時、穴からノソッと何か出てきた。
叔父には最初、変な生き物に見えた。
 よく見るとそれは、手のようなものだった。
穴から手首の先だけ出して、下に掛かった物を取ろうと指を動かしているように見える。
しかし大人の手より明らかに大きい。
 手は何かの病気のように気味悪く黄ばんだ色で、爪も土を素手で掘った後のように黒くぼろぼろだった。
どの指も太さも長さも同じぐらいで、親指と小指の区別もつかない。
指の生え方が違うのか、普通の手より左右対称に見えるのが余計不気味だった。
また、中指の付け根がちらつくので、指輪をしているように見えた。
 叔父はしばらくそれを見ていたが、もっとよく見ようと近づくと、穴の中に消えた。
あまりに変なものだったので若い店員のほうを見たが、怪訝な顔をされた。
ちょうどそこに、何か用があったのか2階の店主が階段を降りてきた。
 店主に今見たものを知らせようと、声をかけて穴を指さした時、穴から指が二本伸びてきて、ぴくぴくと指先を曲げながら左右にゆっくり揺れていた。
こちらを窺うような、虫の触覚の様な不気味な動きだったという。
 指はしばらくその動きを続け、自分のすぐ横にいる階段の途中の店主を向くと、また穴に戻った。
さすがに気味が悪くなった叔父は、それ以上何も言わず入り口に向かった。
その直後、

「 お前、箱どうした!」

という大声に驚き振り向くと、店主が階段で穴を睨んだまま、若い店員が慌てた様子で段ボールを穴の前に置きに行くのが見えた。

「 あの手のことは、店主しか知らないみたいだった。
普段は穴塞いでるから油断したんだな。
しかし、段ボール箱一つで穴塞げばどうにかなるものかなあ、結構でかかったんだけどな。
でもあの手より、箱置いて済ませて、客の俺に説明も弁解もしないあの店が一番怖かったなァ。」

と叔父は笑って語っていました。
叔父は今でもその店があるのか気になるそうです。














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