日々の恐怖 4月29日 悩み
ある意味怖く、ある意味笑っちゃうようなNさんの話です。
俺が高1の時の話だ。
この頃はもう両親の関係は冷え切っていて、そろそろ離婚かな、って感じの時期だった。
俺はと言えば、グレる気にもなれず、引き篭り気味の生活を送っていた。
授業が終わると、真っ直ぐ家に帰って自室に直行。
飯も自室で一人で食っていた。
でだ、見ちまった。
母親が夜中に、庭の立ち木に何かを打ち付けているのを。
直感的に、親父の藁人形と思ったが、その場では確認しなかった。
っちゅーか動揺しちまって、こそこそ逃げ帰るように自室に戻った。
見たくないモン見ちまったな、ってのが、この時の心境を一番良く表していると思う
その時は確認出来なかったけど、動揺が収まるにつれて、気になってしょうがなくなって来る。
あれは親父の人形なのか、が・・・。
で、母親が留守の間を見計らって確認する事にした。
やめときゃ良かったのかも。
結論から言うと、親父の藁人形はあった。
より正確には、親父の藁人形もあった、だが・・・。
いや出るは出るは、親父の他にも俺の担任、親戚の叔母ちゃん、近所のオバはん、同級生の母親、ダンボール箱半分くらいあった。
釘と名前を書いた札が刺さってる藁人形が。
「 なにやってんだよ、カアちゃん・・・。」
と、つぶやいたかどうかは、あいにく記憶に確かではない。
そう思っただけで、実際には言葉になってなかったのかも。
頭の中が真っ白になっちまって、ボーッとしてただけかも知れない。
この時もやっぱ、見付からないように片付けると、こそこそ自室に逃げ帰った。
しばらくは呆然としてたと思うんだけど、少し時間がたつと、なんでか知らんが笑いが込み上げて来た。
ヘヘヘッ、から始まった笑いだったが、最後の方は大爆笑になっていた。
笑いが止まらなかった。
もしも藁人形の中に俺の名前があったとしたら、この時俺は笑い死にしてたかも知れない。
「 カアちゃん!
最後の一線踏み止まってくれたおかげで、アンタの息子は笑死しないで済んだよ!
アンタの中の一片の良識に感謝したい!」
ああもう何ちゅーか、色んな事がもうどうでも良くなっちゃった一件だった。
俺なんかがアレコレ悩んだり心配したりしてたって、現実はそんな杞憂の遥か上っちゅーか。
俺のちっぽけな世界観を粉砕するには充分過ぎる出来事だった。
人間ってのはよく解からない生き物だとも思った。
もうね、変な幻想なんか見ないで、即物的に生きるのが一番だと思った。
腹が減ったら飯食って、疲れたら寝て、飯と寝床の為に機械的に働いて、動物みたいに・・。
とは言うものの、30超えても悩みはあるかなァ・・・。
ほんと人間ってのはよく解からない。
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