日々の恐怖 4月10日 悪戯
Wさんは就職を機に、それまで住んでいた栃木の実家から都内に引っ越した。
しかし就職した会社は半年で潰れ、当時付き合っていた彼女には手痛い振られ方をしたそうだ。
おまけに一年で大きい病気を二度し、計三週間の入院生活まで送るはめになった。
その一年で、小さい病気も含めると医療費はサラリーマン二ヶ月分の給料にものぼったという。
バイトをしながら就職活動をしていたが、いよいよ先も見えなくなり実家に帰ることにしたそうだ。
「 ろくなことがなかったんすよ。」
日当たりの悪いアパートは黴が生えやすく、そのせいで体調も崩しやすいのではないかとWさんは考えたそうだ。
「 家賃は安くないくせに、環境も良くないとはどういうことだ、って思っちゃって。
だいたい水漏れの対応も遅いし、騒音のクレームつけても反応ないし。」
管理会社の怠慢は目に余った。
憤ったWさんは悪戯をしてやろうと企んだそうだ。
「 神社で御札を用意してきました。
次の住人が見つけたら絶対ビビるだろう、って思って。
けど目立つ場所に貼ったら、退去時のクリーニングで剥がされちゃうだろうし。」
引越しの準備をしながら、Wさんは部屋を点検した。
ピンと来たそうだ。
「 ユニットバスの天井蓋があるじゃないですか。
あれを開けて、裏に貼ればバレないな、って思って。」
今まで一度も開けたことはないので、埃まみれだろうと予測した。
マスクをして手をかけた。
天井裏には、びっしり赤茶けた御札が貼られてあったそうだ。
Wさんは言葉を無くして見回した。
一部、爪で引っ掻きながら剥がした跡が残っていた。
そしてとぐろを巻いた蛇のように、濡れた長い髪が盛られてあったという。
Wさんは残りを引越し屋に頼み、二度とそのアパートに戻らなかった。
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