大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月12日 水

2013-04-12 19:21:08 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 4月12日 水






 Sさんが遅めの昼飯を買いに行ったときのことだ。
会社を出て十分ほどのチェーン弁当屋に向かう。
夏場のことで、夕方だというのに陽はまだ強く照らしていた。
地面に濃い影ができていた。
 近道として裏通りへ入ると、三叉路に背の低いお婆さんが首を左右に動かしていたという。
Sさんが近づくと、お婆さんはつつつ……と近づき、ペットボトルを差し出した。

「 これ、おにーさんこれあけてくんしゃい。」

入れ歯がないのか、枯れた花のような口から発される言葉はひどく聞きづらかったという。

「 いいですよ。」

Sさんはペットボトルを受け取り、蓋を回した。
 力をこめる必要はなかったそうだ。
ペットボトルは元から締まっていなかった。
 Sさんは押し付けるように返すと、お婆さんはペットボトルを逆さにした。
当然、ぼとぼとと乾いた路面に水は零れ落ちた。
途端、Sさんは影が一つしかないことに気づいたそうだ。

「 これで、らくになれんりゅ、おかげさんです。」

お婆さんは膝に手をついて礼をした。
曲がった首は溶けた飴のように垂れ、そのまま地面に落ちた。
Sさんの足元からお婆さんが、

「 おかげさんでしゅおかげさんでしゅおかげさんでじゃまができましゅ。」

と嬉しそうに笑ったという。
 弁当を買わず、Sさんは逃げた。
以来その裏通りは歩かないそうだ。
都内、四谷付近での出来事だったという。


















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