日々の恐怖 4月6日 歌声
夏だった。
Mさんは窓を全開にして高校野球を見ていたという。
応援のトランペットに混じって、その歌声は徐々に大きくなっていった。
Mさんは角部屋に住んでいたので、隣か、その隣の住人の歌声に違いなかった。
怒鳴り込んでやろう、とMさんは意気込んでいた。
隣の開けていたキッチン窓から半裸の老婆が見えたという。
「 愛してぇいる、愛してるよねぇだ~りん、病めるときも一緒だってぇ、誓ったよねぇ~。」
Mさんは、音をたてないようにゆっくり部屋に戻った。
話が通じる気はしなかった。
しばらくした後に部屋のドアノブは何度か上下したが、Mさんは決して開けなかったという。
「 不動産屋にクレームいれたら、その部屋に住んでいる人はいないって言ってました。
幽霊・・?
そんなことありえませんよ、だって・・・・。」
その日、夕方になり歌が止んでからMさんは外に出たという。
「 ドアの前に落ちてました、いまどきカセットテープが・・・。」
テープは様子を見にきた不動産屋に渡した。
二日後、Mさんのアパートの鍵は厳重なものに変更されたという。
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