日々の恐怖 4月30日 店舗
Sさんはなかなか変った経歴の持ち主で、大学を出てから単身渡米し数年かけて小型機のライセンスを取ったりと色々な事をしていました。
その頃Sさんは、滞在費が寂しくなると一時帰国し、割の良いバイトをして資金を作っていたそうです。
円が強かった時代を思い出させる話です。
そこで、よく世話になっていたのが、都心のとあるバーです。
仕事はきついが金になります。
そこには人柄の良いバーテンさんがいて、マスターから暖簾分けの様な形で独立する事になりました。
Sさんも誘われて、次に帰国した時は新しい店で雇ってもらう事になりました。
新しい店を出す場所は、ロケーションは良いのに店が長続きしない、と言う曰く付きでしたが相場よりも賃料が随分安い。
新マスターから届いた手紙には、新規開店後、順調に客足も伸びている、と書かれておりました。
そして、また資金稼ぎのために帰国し、その店にお世話になりました。
しかし、Sさんが入った時には店はガラガラです。
本当はSさんを雇う余裕も無い程でしたが、約束だからと良い時給を出してくれました。
話を聞くと、開店当初は前の店の常連さんも多く足を運んでくれ、新しいお客さんも続々と来てくれたがどうも定着しない。
前の店と同じサービスをしているのに。
新マスターは頭を抱えておりました。
そんなある日、出勤途中でばったりと前の店の常連客に会いました。
その人はSさんの事も良く憶えていてくれ、暫し立ち話に付き合ってくれました。
その人も、新しい店には数回行ったと言うので、Sさんは、
「 何故最近来ないんですか?
僕も今そこでバイトしているんですよ。」
と聞いてみました。
すると、その人は言いにくい話だけど、と前置きして重そうな口を開きました。
「 一緒に行った連れが、カウンターの奥に恨めしそうな顔をした女が立っている、って言うからさあ・・・。
君、何も感じない?」
その事を新マスターに言うと、
「 前にもお客さんにそんな事を言われた事があったけど、悪い冗談としか思わなかった。
そう、その人もそう言ってたの・・・。」
その後、前の店のマスターにも相談し、場所を替えて店を出すと嘘の様にお客さんが集り経営も持ち直したそうです。
不動産屋によく話を聞くと、
「 あの場所は、随分前にあった店が潰れて、ママが首を吊ったらしいですが・・・。
まだ成仏していないんですかねぇ・・・・。」
マスター達も、まあ、この商売では良くある話だねえと妙に納得したそうです。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ