日々の恐怖 4月15日 訳あり
不動産調査会社に勤めるTさんの話です。
営業と調査担当のTさんは話好きで、人を怖がらせることが大好きです。
だから、かなりの脚色ありとも思えます。
つい先日の話です。
うちは競売にかけられた不動産の調査を請け負ってる会社なんだけど、こないだ前任者が急に会社に来なくなったとかなんだかで、やりかけの物件が俺に廻ってきた。
まぁ正直うちの会社は、とある筋の人から頼まれた”訳あり物件”を取り扱うようなダーティなとこなもんで、こういうことはしょっちゅうだからたいして気にもとめず、前任者が途中まで作った調査資料(きたねーメモ書き)持って、遠路はるばるクソ田舎までやって来たわけですよ。
その物件はかなり古い建物らしく、壁とか床とかボロボロであちこちにヒビが入ってたり湿っぽい匂いがしたりで相当テンション下がってたんだけど、まぁとにかく仕事だからってことで気合入れ直してせっせと調査を始めたわけですわ。
1時間くらい経った頃かな、ふと窓から外を見ると一人の子供が向こうを向いてしゃがみこんでなにやら遊んでるのに気づいた。
よそ様の庭で何勝手に遊んでんのって注意しようかと思ったんだけど、ぶっちゃけ気味が悪かったんだよね、その子。
なんか覇気がないというか微動だにしないというか、一見すると人形っぽいんだけど、しゃがんでる人形なんてありえないし、でもとにかく人って感じがしなかった。
クソ田舎だけあって辺りはありえない位に静まり返ってるし、正直少し怖くなったってのもある。
建物の老朽化具合からみて3年はほったらかしになってる感じだったので、そりゃ子供の遊び場にもなるわなと思い直し、「今日は遊んでも良し!」と勝手に判断してあげた。
ひとんちだけど。
んで、しばらくは何事もなく仕事を続けてたんだけど、前任者のメモの隅の方に、
・台所がおかしい。
って書いてあった。
調査資料はその書き込みのほとんどが数字(部屋の寸法等)なので、そういう文章が書いてあることにかなり違和感を感じた。
で、気になって台所の方へ行ってみると、床が湿ってる以外は特におかしそうなところはなかった。
でも向こうの部屋の奥にある姿見っていうの、全身映る大きな鏡に子供の体が少しだけ映ってた。
暗くて良くわかんなかったけど間違いない、さっきの子供だ。
“ そうか、入ってきちゃったんだな。”
とぼんやり考えてたけど、ほんと気味悪いんだよね、そいつ。
物音1つたてないし、辺りは静かすぎるし、おまけに古い家の独特の匂いとかにやられちゃってなんか気持ち悪くなってきた。
座敷童子とか思い出したりしちゃって。
もうその子を見に行く勇気とかもなくて、とりあえず隣にある風呂場の調査をしよう、というかそこへ逃げ込んだというか、まぁ逃げたんだけど。
風呂場は風呂場でまたひどかった。
多分カビのせいだろうけどきな臭い匂いとむせ返るような息苦しさがあった。
こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると、風呂場は一通り計測されてて安心した。
ただその下に、
・風呂場やばい。
って書いてあった。
普段なら「なにそれ(笑)」ってな感じだったんだろうけど、その時の俺は明らかに動揺していた。
メモの筆跡が書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきてたから。
震えるように波打っちゃってて、もうすでにほとんど読めない。
“ えーっと前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?
病欠だったっけ・・・?”
必死に思い出そうとしてふと周りを見ると、閉めた記憶もないのに風呂場の扉が閉まってるし、扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた。
“ さっきの子供だろうか?”
色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた。
なんていうか踊り狂ってる感じ。
頭を上下左右に振ったり手足をバタバタさせたり。
でも床を踏みしめる音は一切なし。
めちゃ静か。
人影だけがすごい勢いでうごめいてる。
もう足がすくんでうまく歩けないんだよね。
手がぶるぶる震えるの。
だって尋常じゃないんだから、その動きが。
人間の動きじゃない。
とは言えこのままここでじっとしてる訳にもいかない、かといって扉を開ける勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようとじっと窓を見てた。
レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので、開放部分が狭く、はたして大人の体が通るかどうか。
しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた。
なんか対策が書いてあるかもと期待してたんだけど、やっぱりほとんど読めないし、かろうじて読めた1行が、
・顔がない。
だった。
誰の?
そのときその窓にうっすらと子供の姿が映った、気がした。
多分真後ろに立ってるような・・・。
いつの間に入ったんだよ。
相変わらずなんの音も立てないんだな、この子は。
でも、もう逃げられない。
意を決して俺は後ろを振り返る。
しかし、そこには、なぜか誰もいなかった。
会社に帰った後に気づいたんだけど、そのメモの日付が3年前だった。
この物件を俺に振ってきた上司にそのことを言うと、
「 あれおかしいな、もう終わったヤツだよ、これ・・・?」
って言ってそのまま向こうへ行こうとしたんで、すぐに腕をつかんで詳細を聞いた。
なんでも顔がぐしゃぐしゃに潰れた子供の霊が出るというヘビーな物件で、当時の担当者がそのことを提出資料に書いたもんだからクライアントが、「そんな資料はいらん」と言ってつき返してきたといういわくつきの物件だそうだ。
清書された書類を見ると確かに「顔がない」とか「風呂場やばい」とか書いてあった。
まぁこういった幽霊物件は時々あるらしく、出ることがわかった場合は、備考欄にさりげなくそのことを書くのが通例になってるそうだ。
他の幽霊物件の書類も見せてもらったが、なるほどきちんと明記してあった。
「 なんで今頃こんなものが出てきたんでしょうかね?」
と上司に聞いたら、
「 ん~、まだ取り憑かれてるんじゃないかな、当時の担当者って俺だし・・・。」
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ