大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月25日 月

2013-04-25 19:23:15 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月25日 月





 私の祖母は、祖父と共に佐世保近郊の出で、とりわけ山深い土地で生を受けました。
生家は本家で、一族は周囲の山を開墾し、そこで農業を営んでいました。
祖母も小さなころは、牛を引くような生活をしていたそうです。
また、祖母は六人兄弟の上から三番目の、ただ一人の女児でした。
そのためもあったのか、特に実母に大変可愛がられたそうです。
 
 そんなある日、祖母がまだ小学生の時分、お母さん(私からすると曾お婆ちゃん)が夭折してしまいます。
その後、後妻が向かえ入れられましたが、彼女は激しい躾をする方でした。
 ある時、躾に耐えかねた祖母は、後妻に向かって、
 
「 お前なんか、死んでしまえばいい。」

と、言ってしまいました。
すると、後妻は、祖母にこう答えました。

「 私が死んだら、化けて出てやる。」
 
それで、しばらくして、本当に後妻が亡くなってしまったのです。


 それから、数年たったある夏の晩のこと。
祖母が、一つ下の弟と蚊帳の中で寝ていると、弟がしきりに自分の体をゆすり動かしてきます。
目を覚ました祖母が弟に、

「 どうしたのか?」

と聞くと、部屋の天井の隅を指さして、

「 お姉ちゃん、あれは、なに?」
 
と聞いてきます。
 祖母が、弟の指し示す先を見ると、まん丸い玉が黄色く光りながら浮いていました。
その玉にしばらく魅入られていた祖母でしたが、弟を怖がらせてはならない、気丈に振る舞わなければ、と思い、

「 あれは、お月様だよ、大丈夫だからおやすみ。」

そう、おびえる弟を諭し、安心させ寝かしつけました。
 その光は黄色くぼんやりと部屋の隅に浮いていて、祖母を見つめているようでした。
祖母は、この先の記憶が定かではありません。
もう、80年以上も昔の話だからです。
 
 後年になって、何となく、あの部屋の中の月はもしかすると後妻だったのかもしれない、と思うようになったのだそうです。
話し終わった祖母は、私にこう話してくれました。

「 後妻に厳しく躾てもらい、覚えた、礼儀、裁縫、煮炊きは、あの月の記憶のようにずっと私の裡にあって、私の人生を支えてくれたんだよ。
お母さん、ありがとう。」


















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