大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月4日 白衣

2013-04-04 18:38:57 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 4月4日 白衣





 昔、働いていた工場には検査室という6畳ほどの小さな部屋があり、そこに入室する時は白衣に着替えなければいけなかった。
白衣は廊下にあるロッカーに2、3着掛けてあった。
 新入社員の時、検査室で一人作業をしているAさんに用事があり、白衣に着替えて中に入った。
Aさんへの用事が終わり、「では、失礼します。」と頭を下げて帰ろうとした時、Aさんが「白衣、ちゃんと掛けといてね。」と言った。
自分は「はい、わかりました。」と返事をして、ドアの方に体を向けた瞬間、とても驚いた。
 床に白衣が大の字に広げて置いてあった。
小さい部屋の中、二人きり。
誰かが入って来て気付かないはずのない距離。

“ 何だこれ・・、いつの間に・・・?”

と絶句しているとAさんが、“あら?聞いてないの?”と驚いている。

「 これ、たまにあるから・・・・。」

 この現象、Aさんが入社した10年前からすでに発生しており、初めは原因を究明しようと休日出勤し1日中見張ったこともあったが、ほんの少し目を離した隙に、白衣が置かれており、白衣が置かれる事以外に特に被害もなく、他の社員も慣れているのか「またかよ、面倒くせえなあ。」なんて人もいるくらいだったので、もう、そんなもんなんだって事になったらしい。


 そんなある日、東日本大震災が起こった。
会社が海のすぐ側だったが、すぐに避難したため、うちの会社に犠牲者はいなかった。
 震災後、数日経った頃だった。
同僚が家に尋ねてきて工場を見に行かないかと誘ってきた。
はっきり言って、仕事もなく電気もなくやることもなかった自分は、同僚と工場を見に行くことにした。
 工場だった場所はもう瓦礫の山で、自然の力で積み上げられた車や、どこかの家のアルバムや卒業証書やおもちゃやらエロ本やら、色々なものを見つけては二人で嘆きあった。
買ったばっかだった新車は、屋根の上にきれいに乗っていた。
 同僚と、

「 ここは第1工場があったあたりだ。」
「 ここは会議室だ。」

なんて言いながら瓦礫の山を歩いていると、遠くのほうで白くキラキラ光るものが見えた。

「 あれはなんだろう?」
「 車の屋根とか?」
「 鏡じゃない?」

などと話しながら近づくと、それは大の字に広げられた白衣だった。
 津波で流されたはずにも関わらず、白衣には全く汚れがなく、たった今誰かが置いたかのように瓦礫の上に不自然に置いてあった。
同僚と無言で見詰め合ったあと、

「 ああ、ここ検査室か・・・。」

と震災後初めて爆笑した。
現在、工場は更地になっており、あの白衣がどうなっているのかは知らない。



















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