大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月19日 名前

2013-04-19 19:24:10 | B,日々の恐怖







     日々の恐怖 4月19日 名前







 数年前、親父が死んだ。
食道静脈瘤破裂で血を吐いた。
最後の数日は血を止めるため、チューブ付きゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。
 親父は意識が朦朧としていたが、その風船がひどく苦しそうだった。
その親父がかすれた声で、「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。
俺や家族は、チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ、という意味だと思ったんだが、名前が何を意味しているのか分からない。
結局、意識も混濁してるようだから、言い間違えくらいあるだろう、と言う結論になった。
 親父はその次の日に亡くなった。
慌しく葬式を手配した。
その葬式の準備中、献花の配置がおかしいことに母親が気が付いた。
遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めていた会社社長からの花が端っこに追いやられていた。
 それで、母親が葬儀屋さんに言った。

「 すいません、あの二つの花を入れ替えてください。
大変でしたら、花に付いてる名前を入れ替えてください。」

その時、俺と祖母が同時に気付いた。

「 今、なんて言った。」

鼻の名前を入れ替えろ、と、花の名前を入れ替えろ。
親父はこのことを言いたかったのだろうか。
お世話になった会社社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか。 
献花は葬儀屋さんによって移動したが、もう真実は分からない。
















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