【世界の水ビジネス市場】
北九州市は、昨年6月20日に国内特許を所有する高度浄水処理設備「上向流式生物接触ろ過設備」
(以下、U-BCF:Upward flow Bio Contact Filtration)をベトナム・ハイフォン市の浄水場に整備すると発
表。U-BCFは、微生物による自然浄化作用を利用し、カビ臭物質などの異臭味や黒水の原因となるマ
ンガン、アンモニア性窒素などを除去して、安全で良質な水を作る設備。ろ過槽内に充填した粒上活
性炭に原水を下から上に通水(上向流)して、粒上活性炭を流動させることで、粒上活性炭に生息する
微生物が汚濁物質を取り込み分解する。U-BCFは、原水中の有機物を3~4割分解するとともに、多
量に塩素を消費するアンモニア性窒素や溶存マンガンを6~9割除去することで、塩素の注入量を削
減でき。これらの効果により、発がん性が疑われているクロロホルムなどのトリハロメタンを大幅に
減らすことができる。その北九州市とハイフォン市は、両市の発展に向けた交流、都市開発および環
境保全の調和を目指す技術協力の推進を目的とし、2009年4月に協定を締結。以降、北九州市は、ハ
イフォン市水道公社からの要請を受け、ハイフォン市が抱える水道原水問題の解決に向けて技術的支
援を実施してきた。このような技術協力により、ハイフォン市においても安価なランニングコストと
高い処理能力を備えるU-BCFが認められ、導入に至ったとしいう。
今回の事業において北九州市は、ハイフォン市水道公社が独自資金によりU-BCFの整備工事を発注す
るKOBELCO Eco-solutions Vietnam(神鋼環境ソリューションベトナム現地法人)から、工事施工計画に
係る技術的な精査など技術アドバイサーとしての業務を受託、同事業を側面から支援する。導入施設
はビンバオ浄水場(処理能力5,000立方メートル/日)、工事予算は87億ベトナムドン(日本円4,002万円)。
なお、神鋼環境ソリューションは、海外水ビジネスの推進を図るため、北九州市が2010年8月に設立
した同市海外水ビジネス推進協議会会員企業となっている。また、北九州市水道局とハイフォン市水
道公社は2013年5月30日、水質汚染問題を抱えるベトナム国内の他の水道事業体に、U-BCFを普及さ
せていくための相互協力協定を締結。北九州市は今後も、これまで培ってきた技術とノウハウを活用
し、協議会と連携しながら水ビジネスに取り組んでいくとしている。
①流動床であるため、接触ろ過層全体を有効に利用でき、生物処理効率が良い。
②小粒径の活性炭を利用することでろ材の表面積が大きくとれ、生物繁殖量が多くなるので生物処理
効果 を高められる。
③付加的な要素として、活性炭自体が付着した生物により再生するので、活性炭の吸着能力が長期に
わたり期待出来る。
④上向流であるため、濁度が高い原水を速いろ過速度で接触ろ過できるので、設置面積が少ない。
⑤濁質捕捉量が少ないため、損失水頭が低く自然流下方式が採用でき、中間ポンプなどの機器が不要
である。
⑥原水を直接生物処理することでアンモニア性窒素などが生物酸化され、前塩素や中間塩素処理で注
入す る次亜塩素酸ナトリウム量の低減と平滑化が得られる。
⑦下向流方式では、原水の濁質も除去するため、その後の凝集工程において、核となる物質がなく凝
集阻 害を起こす事が多いが、U-BCF 処理水には濁質が存在するため、凝集性を悪化させない。加
えて、生物 処理水の濁質は沈降性の良いものに変質するため凝集・沈澱処理に対し良好な影響を
与える場合が多い。
●知財について
1.北九州市の事例研究
北九州市は、主要設備を株式会社神鋼ソリューションに依拠した設備として完成されているが、先願
特許として1998年に特開平10-258295「公共水道設備」を公開している(上図参照)。 塩素を用いた
滅菌装置の上流側に、活性炭層18に微生物を着床させて微生物濾過を行なう接触濾過装置12を設
けことで、活性炭を有効に利用して生物接触濾過を行い、従来では除去が困難なトリハロメタン前駆
物質等の有機物の除去も可能な公共水道設備を提案している。つまり、従来の活性炭濾過法に使用す
る活性炭は、活性炭を吸着材として使用し、水道水中に含まれる異臭物、色素、毒素を除去するもの
であり、その能力を十分に生かすために1~2ケ月で再度新しい活性炭に交換する必要があり、取り
替えた活性炭の再生が可能であるとしても、処理が高価になるという問題があった。また、従来例に
係る生物接触濾過法では、微生物により酸化分解され易いアンモニア性窒素や陰イオン界面活性剤等
の処理はできるものの、微生物の固定化担体がセラミックスや合成樹脂の加工品であるので、生活排
水に起因した、水道界で問題となっているトリハロメタン前駆物質等の有機物の処理については、僅
か数%に留まり、有効な除去は不可能であるという問題があった。この問題を解決する技術請求項は
以下のようになっている。
(1)活性炭を有効に利用して生物接触濾過を行い、従来では除去が困難なトリハロメタン前駆物質
等の有機物の除去も可能な公共水道設備の提供を目的とする。
(2)活性炭層に使用する活性炭は、粒径0.2~2mmの粒状活性炭を主体とする。
(3)底部が入水部となってその上部に均等流発生層が、さらに、その上部に活性炭層が形成された
上向流式生物接触濾過池である。
(4)接触濾過装置の下流側で、滅菌装置の上流側にはフロック形成池と、これに続く薬品沈澱池及
び急速濾過池が設けている。
2.神鋼株式会社神鋼ソリューション(神鋼パンテツク株式会社)の事例研究
(1)特開2000-237738 気水分配装置及びその気水分配装置を用いた水処理装置
「特開2000-237738 気水分配装置及びその気水分配装置を用いた水処理装置」が神鋼パンテツク株式会社よ
り公開されている(上下図参照)。多数のオリフィス12を有する略逆V字状の複数の空気分散材10を、
隣接する空気分散材10、10の間に所定間隔11を設けて水平方向に配置し、空気分散材10の長手方向
にほぼ等間隔で仕切部材14が設けられている。空気分散材10の上部には有孔プレート13を備えること
で、濾過過程において装置に付着した夾雑物や懸濁物の除去作業が容易にできる、つまり、メンテナンスに
関わる気水分配装置及びその気水分配装置を用いた水処理装置が提案である。
(2)特開2009-202146 水処理装置及び水処理方法
次に、下図のように、(1)微生物担体を利用して被処理水を曝気処理する反応槽と、応槽の処理水を膜分離
する浸漬型膜分離装置が備えられた膜分離槽とが一体化された水処理装置で、(2)この反応槽と膜分離槽とは下端
部が開放された第一仕切により仕切られ、かつ、この開放部によって連通していて、(3)、反応槽は上端部及び下端
部が開放された第二仕切により、下部に第一散気装置を設置した前段領域と、膜分離槽に第一仕切を介して隣接す
る後段領域とに分けられ、(4)膜分離槽に近づくほど高さが増すように底面が傾斜している。ことを特徴と
する粒状活性炭等を微生物担体として利用する反応槽と浸漬型膜分離装置とを組み合わせた、小型、かつ、省
エネルギーで分解効率の高い水処理装置及び水処理方法が公開されている。このことで、応槽と膜分離槽とが
一体化しているため、設置スペースが小さくて済み、従来の生物接触ろ過装置及び活性炭ろ過装置の組み合わ
せた場合と比較して、1/3以下の設置面積で設備設計が可能である。また、粒状活性炭を好気性微生物の担
体とした場合には、有機物の好気性分解と吸着処理とを同時に行うことが可能であり、処理水の水質も高く、
原水の水質変動にも追従しやすくなるという。
(3)特開2010-069359 水処理装置及び水処理方法(上案の改良)
下図の水処理装置は、被処理水を曝気処理する反応槽が備えられた水処理装置で、反応槽は上端部及び下端
部が開放された第一仕切により、下部に散気装置を設置した第一領域と、散気装置を設けない第二領域とに
分けられ、円柱状の管中心部と、下端面が前記管中心部の径よりも大きな径を持つ管下部と、上端面が管中
心部の径よりも大きな径を持ち、かつ、前記管下部よりも長い管長を持つ管上部とを有しているエアリフト
管である、ことを特徴とした、反応槽と浸漬型膜分離装置とを組み合わせた、分解効率の高い水処理装置及
び水処理方法の提案であり、散気装置の形状により被処理液の流速が大きく、ブロア動力の軽減によるコス
ト削減できるという。
【世界の水ビジネス】
2007年は36兆円の世界の水ビジネスは、25年には87兆円を超えると想定されていている(約2.4倍)。
※出典 第2 1 回原子力委員会資料第1-2 号資料
今回考察した、北九州市とハイフォン市水道公社の事例は、まさに欧米先進国の巨大水ビジネス企業と韓国、
中国などのアジア新興国とが激しい受注合戦が繰り広げられる中で進行していたわけだ。その最中で、政治
的背景を除いた受注獲得理由を挙げるとしたら、(1)日本の公害で培ってきた事業体(企業)技術設計である
こと、(2)それは、従来のメーカサイドの設計、オゾン殺菌+膜+化学薬品による高度処理から流動活性生物
接触による高度処理を実現させことで、(3)安心安全で、美味しくて、イニシャルやランニングコスト逓減や充
実で親切なケアを実現させたことにあると思われる。
今夜は水ビジネスを考えてみたわけだが、10数年水処理技術の経験はここでも活かされているとはいえ、短
時間で俯瞰しまとめ上げてみたわけだが少々骨が折れたものの懐かしくもある。発展途上国や新興国サイド
に立った産業基盤整備事業は益々必要とされるわけで、とりわけ日本の美味しい水製造技術の普及は多くの
国民の幸福度向上に寄与すると確信している次第。
午後から、喘息気味で咳き込む状態に陥る。データをみるて驚く!環境は正直だ、と思う。また、このままでは
殺される!とは誇張し過ぎだろうが、半分は真剣でもある。
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