仕事を終えて、一杯の酒というのは何事にも変えがたい
ものがある。きょうも残暑の汗をしたたかにかいて、
一杯の酒にありついているところである。
この何事にも変えがたいものではあるが、それのみ
というのもさみしいものがある。
しかし、まさしくそれのみに、見える人もいる。
彼の場合もそうだった。私が今の会社に入社して、彼を
見たとき、随分お年寄りが働いているなあ…と
思ったものだった。前歯が無くて口元がすぼみ、モゴモゴ
としゃべる。腰は曲がって少し前かがみに歩く。
どうみても70過ぎに見えたのであるが、50代と
聞いて驚いた。
彼は大の酒好きで、休み明けなど会社でもプーンと
酒のにおいをさせていた。
夏でも熱燗を飲み、ややアル中気味で手がブルブルと
震えていた。たまの飲み会など、やはり好きなのでかかさず
出席していた。
ある日の飲み会での後、カラオケへといったのだが
彼は震える手で、歌詞カードをめくっていた。
彼はなぜか軍歌一筋、軍歌しか歌わないのである。
みんなひとしきり歌い終え、「Iさん歌う曲決まった?」
「ウ~モグちょちょっと待ってもぐ」また他の人が歌いだす。
彼は相変わらず震える手で歌詞カードめくり。
「Iさん決まった?」「ウ~モグモグ」
そしてついに「ウ~こ、これ…」
「もう時間来ちゃった帰るよ!」
これは本当の話である。彼はお酒をこよなく愛しずっと
一人身だった。そんな彼が突然亡くなった。
会社を無断で休んだので「ちょっと見てきてくれ」
と上司に言われたのである。頃は2月の末、まだまだ寒い日だった。
彼は一軒家の賃貸に住んでいた。家中鍵が掛かっていて、
ドアチャイムを何度押しても出ない。仕方なくドアをたたき
声を掛けてみるが返事はない。中からは付けっぱなしの
TVの声が聞こえていた。
死因は心臓マヒらしい。したたかに飲んで風呂に入った
らしく、風呂場で発見された。
私は彼は彼なりの大往生だと思え、一杯の酒のみに生きた
彼の生き様を思い、しばらくの間、人生について考えたものだった。
そしてこうして一杯の酒に酔うと時々思い出すのである。
Iさんのことを…酒のみの人生を…。
ものがある。きょうも残暑の汗をしたたかにかいて、
一杯の酒にありついているところである。
この何事にも変えがたいものではあるが、それのみ
というのもさみしいものがある。
しかし、まさしくそれのみに、見える人もいる。
彼の場合もそうだった。私が今の会社に入社して、彼を
見たとき、随分お年寄りが働いているなあ…と
思ったものだった。前歯が無くて口元がすぼみ、モゴモゴ
としゃべる。腰は曲がって少し前かがみに歩く。
どうみても70過ぎに見えたのであるが、50代と
聞いて驚いた。
彼は大の酒好きで、休み明けなど会社でもプーンと
酒のにおいをさせていた。
夏でも熱燗を飲み、ややアル中気味で手がブルブルと
震えていた。たまの飲み会など、やはり好きなのでかかさず
出席していた。
ある日の飲み会での後、カラオケへといったのだが
彼は震える手で、歌詞カードをめくっていた。
彼はなぜか軍歌一筋、軍歌しか歌わないのである。
みんなひとしきり歌い終え、「Iさん歌う曲決まった?」
「ウ~モグちょちょっと待ってもぐ」また他の人が歌いだす。
彼は相変わらず震える手で歌詞カードめくり。
「Iさん決まった?」「ウ~モグモグ」
そしてついに「ウ~こ、これ…」
「もう時間来ちゃった帰るよ!」
これは本当の話である。彼はお酒をこよなく愛しずっと
一人身だった。そんな彼が突然亡くなった。
会社を無断で休んだので「ちょっと見てきてくれ」
と上司に言われたのである。頃は2月の末、まだまだ寒い日だった。
彼は一軒家の賃貸に住んでいた。家中鍵が掛かっていて、
ドアチャイムを何度押しても出ない。仕方なくドアをたたき
声を掛けてみるが返事はない。中からは付けっぱなしの
TVの声が聞こえていた。
死因は心臓マヒらしい。したたかに飲んで風呂に入った
らしく、風呂場で発見された。
私は彼は彼なりの大往生だと思え、一杯の酒のみに生きた
彼の生き様を思い、しばらくの間、人生について考えたものだった。
そしてこうして一杯の酒に酔うと時々思い出すのである。
Iさんのことを…酒のみの人生を…。