「けっこう過ぎちゃってるけど…」茶房じゅんのママが
そう言って外庭からとったバジルを、お茶してるわたしに
一束持ってきてくれた。
(これはイメージです)
なるほど、花芽がけっこう伸びてわさっと繁茂している。
以前、ママに初めてバジルをいただいた時、
ママの妹さんにバジルソースのレシピを
教わったのだ。以来夏になると戴いている。
(同じく)
お蔭で、ここのとこバジルソースを
欠かしたことがない。
とりあえず今夜は飾っとこうっと、と
家に帰ると、花瓶に水を入れ、
ざっくりと束ごと入れて居間に置いた。
居間中にバジルの香りが広がる。
ウ~ンやっぱり天然のアロマテラピーは
いいなあ…とほんわり気分に浸った。
日も暮れて、家族で晩飯を食べているとき、
「ン…今なんか聞こえなかったか?」わたしが言うと
一家で顔を見合わせ、「やっぱり聞こえた?」と
みんなうなづく。
それぞれが顔を向けたのは、バジルの
束の飾ってある花瓶のほうだった。
「リーリー」と、か細くはあったけれど、ハッキリとした
虫の声である。
それは、一定の間をおいては又聞こえるのだ。
家の中で、天然の虫が鳴いたのである。
あきらかにバジルの束の中に
秋の虫が潜んでいるようなのだ。
虫嫌いの身内らは、「ヤだ~」と言って眉をひそめたが、
わたしは秋の訪問者に敬意を表し、「シーーッ」と口に
指を当て、しばし耳をすませさせて秋の声を聴かせたのだった…。
その後、どんな虫なのか確認しようと
バジルの茂みを覗き見たが、
ついに確認
出来ぬまま花瓶ごとベランダに持ちだし、
丁重にお引越し願ったのだった。
翌朝、明るくなったのでベランダでバジルの葉を
もぎつつ1枝ずつ確認したが、どうやら秋の訪問者は
何処かへ去ったらしく、ついにその姿を確認できぬまま、
その声も二度と戻ってはこなかった…。