春庭Annex カフェらパンセソバージュ~~~~~~~~~春庭の日常茶飯事典

今日のいろいろ
ことばのYa!ちまた
ことばの知恵の輪
春庭ブックスタンド
春庭@アート散歩

ミンガラ春庭「わ~い!ヤンゴンから短歌初投稿初入選」

2016-01-16 00:00:01 | エッセイ、コラム

佐佐木幸綱選

20160116
ミンガラ春庭ミャンマーだより>ヤンゴン暮らし1月(2)わ~い!ヤンゴンから短歌初投稿初入選

 12月に再来緬以来、いいことは何一つなかった春庭のヤンゴン暮らし。階段を滑り落ちるわ、アボガドの種とろうとして手にナイフ刺してしまうわ、ほんとよくないことが続きました。
 家族にとってほんとうにたいへんな出来事もあった中、たったひとつ、私にとっていいことがありました。

 1週間メール不通だった間に届いていたメール一通。新聞社からの連絡でした。9日づけのメールでしたが、私がメール読んだのは13日。

 「はじめまして。このたびはご投稿ありがとうございました。
じつは「やはらかき口笛のやうに家守鳴く……」の歌が入選となり、11日朝刊に掲載されます。おめでとうございます。」

 私の母は、俳句や短歌を作るのを趣味としていました。月に1度の句会に出席するにも、夕食を準備し、父の晩酌のつまみの用意怠りなく、長女に「みなの世話を頼む」と言いおいて、遠慮しいしい出かけていきました。毎月、新聞の俳句欄短歌欄に投稿して、掲載されるのを楽しみにしていました。
 新聞に載ると「ほら、お母さんの名前が出ているよ」と、うれしそうに見せてくれました。娘3人(姉、私、妹)にとっても、母親の名前を天下の新聞上に見るのは誇らしい気持ちでした。全国版に載ったのは一度だけでしたが、地方版にはときどき掲載されていました。
 孫をひとりも見ることなく、医者の誤診で55歳で死んでしまった母。今の私は、母より年上になっています。

 私も母のマネをして、子供の頃から五七五に親しみ、テキトーな言葉遊びとして楽しんできました。自分が子供を持ってからも折に触れて俳句や短歌を作ってきました。
 「おかあさん、きいて。また一首できました。気に入ってくれるかな」と、空に向かって言うと、母がほほえんでくれるような気がしてきたのでした。
 母に伝えるだけで書き留めてこなかったので、娘が生まれた喜び、息子が仮死産となり生死不明であった不安など、「子育て短歌」の多くは、空に書いただけでした。

 作った歌を書き留めるようになったのは、2003年にブログを初めてからです。ブログのかたすみに、そのときそのときの三十一文字を書き留めました。ヘタの横好きですから、どこに発表するとか投稿するとかもなしでした。母に語りかけるように、心の中でつぶやけば満足だったのです。

 が、今回、ヤンゴン生活のつれづれ、部屋にテレビもない、町に美術館もない、映画館の映画はミャンマー映画とか、インド映画にミャンマー文字の字幕がついたものとか。
 日本での趣味であるジャズダンスは、当地にレッスンできる場も見つからないし、少しは自分の楽しみになる趣味を持たなければ、と、思いました。

 12月、ヤンゴンから新聞短歌欄に初投稿。
 ビギナーズラック!初投稿初入選となりました。
 毎週1000首、2000首にのぼる投稿作品があるという中、採用数は4人の選者10首ずつの40首。まあ、宝くじにあたるようなものかな、と思っていたところ、思いがけず入選のお知らせをもらって、なにも楽しみがないヤンゴン生活が、にわかに輝いたかのごとく感じました。ゲンキンなものです。いやいや、わたし、宝くじでゲンキン10億円当たったほうがうれしいけれど。

 さっそく、娘にメールしました。イマドキの若者にしては新聞を熱心に読む娘と息子ですが、短歌欄など眺めたこともない。
 「1月11日の新聞に載るってメールが来た」という母からのメールに、3日前の新聞を探して、短歌欄を確認してくれました。「母の短歌あったよ」というメールと、ケータイでとった新聞の短歌欄を添付してくれました。

 4人の選者のうちふたりの共選となり、選評も書いていただいた、すごいビギナーズラック。ビギナーといっても、投稿がはじめてなのであって、自己流作歌歴は60年です。グループ活動のできない人間なので、短歌結社に入るとか、先生につくとかしないまま、歌が磨かれず、ヘタの横好きのままの60年でしたが。
 春庭の「ヘタの横好き短歌」も、「全国版」にのったなら、なかなかのもんでしょう、と母に報告したいです。

 えらい先生達は「自作解題」ってのをやるんだけれど、ビギナーなのに、自作解題をやります。
「やはらかき口笛のやうに家守鳴くヤンゴン教員宿舎の夜に」
 やわらかき、ように、やもり、やんごん、よる、、、って具合に、Y音、ヤ行音を並べたんです。頭韻ってやつです。
 沖縄のヤモリはゲッゲッと鳴くし、トッケイトッケイと鳴くと言う地方もあるなか、我が部屋に住みついているヤモリは、寂しそうにピューヒューと鳴くのです。家族と離れてひとりすごす夜に、仲間のようなヤモリくん。ときどき天井や壁を這っているのを見かけます。

 ビギナーズラックのあとは続かない、というジンクスがありますが、短歌投稿続けていきたいです。なにしろ、ネット投稿ならタダ、ヤンゴンから日本へ葉書送っても、500チャット50円の切手で届く、超お安いお楽しみ。タダと招待券と「ご自由にお持ち帰りください」が大好きな春庭にぴったりの趣味です。

 おかあさん、三十一文字趣味を残してくれてありがとう。わたし、おかあさんの趣味を受け継ぎましたよ。66歳にして初投稿。おかあさんが新聞に載った自作の句や歌を子供達に見せてくれたこと、思い出しました。

 三十一(みそひと)の文字の下なる母の名を新聞に見る朝のうれしさ<春庭

 娘も「短歌のこと、わからないけれど、いい歌だと思う」と、メールくれました。息子も「おめでとう」と言ってくれました。夫は「原稿料もらえないのに文字書く奴の、気がしれない」と言うだろうと思いますが、そんな評は気にしない!66歳のビンボーバーサンが、お金かからない趣味を見つけてルンルンしているんです。なにもいいことがなかった日々に、宝くじ10億円ほどではなくとも、町内会の福引きに当たったくらいの喜び方をしてもいいんじゃない?と、夫には言っておきましょう 。
 

馬場あき子選

<おわり>
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする