江戸から明治にかけての浮世絵でも親しまれた孫悟空(by月岡芳年)
20160106
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>サルの文化史(4)猿神、孫悟空その他
ヤンゴン市内、至る所にお寺の仏塔が、金色に輝いています。金色以外の仏塔もあるにはあるけれど、目立たないし、なんといっても、当地の人々は、仏像にしろ仏塔にしろ金色が大好き。
仏塔に数は負けるけれど、各所にヒンズー寺院も点在する。こちらも、朝に夕にお参りの人が絶えない。イスラムモスクもあり、朝夕、コーラン朗唱の声が響く。町を歩いていると、コーラン朗唱に合わせて唱和している、イスラム帽子をかぶったおっちゃんなども見かける。
みなそれぞれの信仰を大事にし、少なくとも市内では宗教による争いなどはないように思えます。
政治の世界では、仏教の高僧が、アウンサンスーチーさんのイスラム教徒対策は生ぬるい、もっと仏教徒優遇策を出せ、と不満を持っているようですけれど。
中国長春市内のモスクに入ったことがありましたけれど、ヒンズー教のお寺にはまだ一度も入ったことがありません。お寺は、基本だれでも出入り自由なところが多いのですが、やはり知り合いでもいないと、中にはいりづらいものです。
ヒンズー教の猿神、ハヌマーンは、ラーマーヤナなどの神話伝説によって、ヒンズー教信者以外にも、アジア各地に深く浸透しています。ミャンマーの伝統的人形劇の題材にも使われています。
私たちになじみの『西遊記』孫悟空も、ハヌマーンの姿が中国に伝わって、その影響から造形されてであろう、という説が有力です。
1864年頃月岡芳年画(早稲田大学演劇博物館所蔵より)
日本の『ドラゴンボール』も、アジア各地に輸出され、中国などでは日本のテレビアニメ開始直後から、そっくりパクリの海賊版がテレビ放映され、「ドラゴンボール」は中国原産と信じている中国人がいまだに多い。(最近は、著作権問題をクリアした正規の日本アニメ版の放映もありますけれど)
さて孫悟空のモデルのひとつ、という説のハヌマーン神。
インド神話『ラーマーヤナ』の中で、ハヌマーン神は特別な神通力を持ち、身体の大きさをかえたり、分身の術をつかったり、猿軍団を率いたり、山を持ち上げたりと、大活躍をしてヴィシュヌ神の化身であるラーマを助ける働きをします。三蔵法師を助ける孫悟空の造形は、やはりハヌマーン神からだろうなあと思わせます。
インドのヒンドゥー教寺院では、ハヌマンラングールという種類の猿が飼われていることがあります。この猿は、ハヌマーン神の使いとして大切にされ、参詣者から餌を与えられ、境内を飛び回っています。
ハヌマーン神、ラーマーヤナ、孫悟空、ドラゴンボール、、、、文化はまことに幅広く世界中を飛び回るものだなあと思います。これぞグローバル。
ハヌマーンラングール(借り物画像)
ハヌマンラングールに関して面白い説明を読みました。砂漠や森の中などのエサの乏しい地域にいるハヌマーンは、群れの中でも群れ同士でも争うことはないのに対して、寺院の中にすみついてエサを豊富に与えられているハヌマーンラングールの群れでは、群れのリーダーの座をめぐってオス同士の争いが絶えないのだそうです。
ほほう、人間世界でも、狩猟採集が中心であった縄文文化ではムラ同士が争ったりせずに暮らしてたのに、弥生時代になると水争いなど、ムラ同士で殺し合いになるまで争い事が起きたし、ヤマト政権成立後は、権力者の座をめぐってスメラミコトの一族は血で血を洗う闘争を繰り返しました。
サルもヒトも、乏しいエサを分け合う方が平和みたいです。豊富にものがあるからといって、けっして幸福度がますわけではない。
とはいえ、乏しさのランクにおいて最底辺に位置する春庭、どんなエサにでも飛びつきますから、与えてみてください。
<つづく>