我が家では、春先にすみれの花が咲く。すっと前に調査のために白井鐵造記念館にいったとき、当地のすみれ愛好会の方からいただいたすみれが毎年咲き続けている。
宝塚歌劇団のレビューにもっとも貢献した白井鐵造(1900~1983)の出身地は、周智郡春野町犬居、現在の浜松市天竜区春野である。犬居は秋葉山のふもとの集落である。今では秋葉山山頂には秋葉神社があるが、明治初年の神仏分離の前は、三尺坊を祀る秋葉寺があった。潰された秋葉寺は、今はその中腹に再建されたが、あたかも秋葉神社が秋葉信仰の正統であるかのように宣伝されているが、近世までは秋葉寺しかなかった。秋葉神社は、近代が創り出したものだ。
さて白井の父は秋葉寺の大工であったという。白井は尋常小学校を卒業後、浜松にある日本形染に就職した。彼は働きながら通信教育で勉強するような努力家であった。その後上京し、小林一三に出会い、宝塚歌劇に関わるようになり、パリでレビューの勉強をし、宝塚歌劇団の演出家となった。
宝塚歌劇団は、そのため、白井の故郷を訪問することがよくあるし、春野中学校の修学旅行は宝塚歌劇団の観劇が盛り込まれている。
宝塚歌劇団が浜松市周辺で上演するとき、私は何度かそれを見に行っている。チケットは、ファンクラブに入っていた女性に頼んで入手してもらうなど、なかなか苦労した。宝塚歌劇団の1部の演劇は学芸会のようだは思うが、2部での豪華絢爛なショーは素晴らしいと思ってきた。とりわけ、照明の美しさに、私は感動していた。
さて、今回の宝塚歌劇団の団員が自死した事件を契機に、宝塚歌劇団の陰湿きわまりない上下の関係、団員たちの奴隷的な境遇が明かされ、私はたいへん驚いている。阪急のカネ儲けの手段として、団員たちが低賃金、長時間労働などにより、搾取収奪されている状況が明るみに出された。そうした状況に置かれているからこそ、音楽学校や歌劇団において、学生間、団員間の暴力的な構造が維持されてきたのではないかと思った。
私はジャニーズ関連のタレントにはまったく興味はないが、ジャニーズ問題も、事務所が所属タレントをこき使い、奴隷的な搾取を行っているようで、宝塚と同様なにおいがする。
宝塚歌劇団の隠されていた醜悪な姿が白日の下にさらされているが、劇団側は隠ぺいを図り、さっさと片づけてカネ儲けに走ろうとしている。旧ジャニーズ事務所も同じ対応だが、この際、徹底的に膿を出しきらないと、人びとは戻っては来ないだろう。
宝塚の「伝統」とされている陰湿な上下関係や団員の奴隷的待遇は、白井がつくりだしたものでないことを祈りたい。
まだ寒い時期に、我が家のすみれは、青い花をつける。長い期間咲き続けるものではないが、なかなか可憐な花である。「すみれの花咲く頃」はいい歌だと思う。宝塚歌劇団のすみれは、再び咲くのだろうか。