浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

「いちょうの実」「よだかの星」

2022-12-28 21:41:28 | 宮沢賢治

 「いちょうの実」は、いちょうからたくさんの実が落ちるころの話である。いわば旅立ちの話。たくさんの実が、母なるいちょうの木から落下して、地上に降りるのだ。いちょうの実、すなわちいちょうの子どもたちは、新たな旅立ちにこころをときめかす。もちろん不安もある。それが短い文の中に描かれる。

 最後の文。「お日様は燃える宝石のように東の空にかかり、あらんかぎりのかがやきを悲しむ母親の木と旅に出た子供らとに投げておやりなさいました。」

 愛情豊かな場面が、短い文のなかに強く描かれる。

 「よだかの星」は、「よだかは、実にみにくい鳥です」から始まる。よだかは、だから他の鳥にもバカにされ、悪口をたたかれる。よだかは自分自身のみにくさを知っていた。だからそういう世界から脱出しようと、空高く飛んでいく。星を目ざして。他の星に「どうか私をあなたの所へ連れてってください」と頼むのだが、星々はよだかの願いを聞いてくれようともしない。

 それでもよだかは、「どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。」寒く、また空気がうすくなっても、ひたすらのぼりつづけた。

 すると、「自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、しづかに燃えているのを見ました。」

 となりはカシオペア、「いつまでもいつまでも燃えつづけました。」

 「みにくい」とされるよだかが差別される。しかしそのよだかに、愛情深く星の地位を与えた宮沢賢治。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

善意

2022-12-28 13:27:39 | 宮沢賢治

宮沢賢治の「双子の星」。善良なる双子の星は、夜空で銀笛を吹いている。善良さによる行動により、あるいはだまされたことにより、みずからの定位置から離されても、かならず何ものかが救ってくれるという話である。

宮沢賢治の童話には、自然がいっぱいある。自然の中で話が展開する。だまされた双子の星が海に落ちると、その底にはひとでがいる。ひとでは、もともと星であった。問題を起こした星が海に落とされてひとでになるのだ。しかし双子の星は、問題を起こしたわけでもないので、竜巻によって夜空に帰ることができた。

「貝の火」は、権威を与えられると、その権威を悪用して権力を振るうようになる。とりわけ、その権威を利用して私欲を肥やそうという輩と組むと、とんでもないことが起こる。

 兎のホモイは、ひばりを助けたことにより、「貝の火」という宝珠をもらう。宝珠を持つことは、ある種の権威をもたされることになるのだ。まわりの動物たちも、権威を持ったホモイを忖度し、服従するようになる。ホモイのもつ権威を悪用しようとするキツネが出て来て、ホモイを悪事に誘導する。そういう話しが「貝の火」である。

 もちろん善行によりもらった宝珠である「貝の火」は、ホモイがキツネと悪事を働いたことにより、どこかへ飛び去っていくのであった。

 権威は、その資格をもつ者にこそ与えられなければならない。残念ながら、その資格をもたない者たちが権威をひけらかすのである。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宮沢賢治(3)

2022-12-27 09:20:09 | 宮沢賢治

 全集の5は、童話が収められている。まだ3作しか読んでいないが、それぞれが創造的で、読んでいてその光景が描け、宮沢賢治の優れた才能を感じる。内容は、動物や植物が主人公であり、今はなき自然が豊かに存在していた時代の話である。

 「蜘蛛となめくぢと狸」は、蜘蛛、なめくぢ、狸、いずれも悪事を働き滅んでいく。彼らは人を騙し、そのあと食ってしまうという残忍な動物である。

 狸の腹の中には、だまされて食われた兎や狼がいる。しかし兎や狼は、狸にだまされて食われてしまったことに気付かない。狼のことば・・・

 「ここはまっくらだ。ああ、ここに兎の骨がある。誰が殺したろう。殺したやつは狸さまにあとでかじられるだろうに」

 狼もだまされて食われてしまったのに、狸を信じている。

 この狼は、だまされて食われている日本人のことではないかと思ってしまう。狸は日本国家である。

 狸は病気にかかって死んでしまうのだが、その説明。

 「からだの中に泥や水がたまって、無暗にふくれる病気で、しまいには中に野原や山ができて狸のからだは地球儀のようにまんまるになりました。」

 日本人のみならず、地球に生きる人びとは、狸にだまされて食われてしまい、真っ暗な狸の腹の中で暮らしているのかも知れない。そしてそれにきづくことはなく、狸とともに死んでいくのである。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする