「いちょうの実」は、いちょうからたくさんの実が落ちるころの話である。いわば旅立ちの話。たくさんの実が、母なるいちょうの木から落下して、地上に降りるのだ。いちょうの実、すなわちいちょうの子どもたちは、新たな旅立ちにこころをときめかす。もちろん不安もある。それが短い文の中に描かれる。
最後の文。「お日様は燃える宝石のように東の空にかかり、あらんかぎりのかがやきを悲しむ母親の木と旅に出た子供らとに投げておやりなさいました。」
愛情豊かな場面が、短い文のなかに強く描かれる。
「よだかの星」は、「よだかは、実にみにくい鳥です」から始まる。よだかは、だから他の鳥にもバカにされ、悪口をたたかれる。よだかは自分自身のみにくさを知っていた。だからそういう世界から脱出しようと、空高く飛んでいく。星を目ざして。他の星に「どうか私をあなたの所へ連れてってください」と頼むのだが、星々はよだかの願いを聞いてくれようともしない。
それでもよだかは、「どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。」寒く、また空気がうすくなっても、ひたすらのぼりつづけた。
すると、「自分のからだがいま燐の火のような青い美しい光になって、しづかに燃えているのを見ました。」
となりはカシオペア、「いつまでもいつまでも燃えつづけました。」
「みにくい」とされるよだかが差別される。しかしそのよだかに、愛情深く星の地位を与えた宮沢賢治。