『ヒグチユウコ展』が森アーツセンターギャラリーにて開かれています

少女や不思議な生き物などをモチーフに多様な作品を生み出す画家、ヒグチユウコは、イラストレーションだけでなく、映画のポスターやGUCCIとのクリエイションなどを手がけるなど幅広く活動し、多くのファンの心をとらえてきました。



そのヒグチユウコの世界を紹介する『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』の内容について、Penオンラインに寄稿しました。

絵本原画から映画ポスター、GUCCIとのクリエイションまで!圧倒的没入感のヒグチユウコのサーカスの世界|Pen Online

今回の展覧会は2019年に世田谷文学館ではじまり、神戸や福岡などで開かれてきた個展をスケールアップしたもので、各地に出展された500点の作品をはじめ、近年の制作や未発表を含めた1000点を超える作品が公開されていました。



原画類は時に壁を埋め尽くすかのように続いていて、一点一点を具に見ていくといくら時間があっても見切れないと思ってしまうほどの凄まじいボリュームでした。



ハイライトを飾るのはサーカステントを模した空間展示で、「カカオカー・レーシング」の立体展示を中心に、「ヒグチユウコ画集 CIRCUS」に登場するイラストや描き下ろし原画などが並んでいました。



一連の絵本の原画などとともに興味深いのは、アニメからホラーまでの幅広いジャンルを手がけた映画のポスターでした。そこではそれぞれの映画の作品の特徴を引き出しつつも、空想と現実を行き交うようなタッチを見せていて、ヒグチユウコの類稀なる才能を伺い知れました。



このほか、掛け軸や洋服にトルソー、アニメーションなどの作品も公開されていて、ヒグチユウコの創作の全貌を目の当たりにすることができました。


一部展示作品の撮影が可能です。*本エントリの写真はプレス内覧会時に主催者の許可を得て撮影しました。



会期中無休です。4月10日まで開催されています。

『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』@higuchiyukoten) 森アーツセンターギャラリー 
会期:2023年2月3日(金)~4月10日(月)
休館:会期中無休
時間:10:00~18:00
 *金・土曜は20:00まで。
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般・大学・専門学校生2000円、中学・高校生1600円、小学生600円
 *事前予約制(日時指定券)を導入。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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サントリー美術館にて『没後190年 木米』が開かれています

江戸時代後期の京都の文人、木米は、作陶に打ち込みつつ、山水画も手がけ、多くの文人らと交流するなどして活動しました。



その木米の業績と足跡を紹介する『没後190年 木米』の見どころについて、WEBメディアのイロハニアートに寄稿しました。

木米が切り開いた新たな美の世界とは? | イロハニアート

まず展示では木米のやきものを紹介していて、中国や朝鮮、それに日本の古陶磁に着想を得ながら、かたちや文様の一部を抜き出しては再構成するユニークでかつ魅惑的な造形を見ることができました。



こうした木米の作陶のうち、特に才能を発揮したのが、当時流行していたという煎茶の器で、釜の湯を沸かすための風炉では、茶を主題とした中国の詩を側面から背面に彫り、あたかも版本のように見せていました。まさに書物好きの木米ならではの作品といえるかもしれません。

木米が山水画を手がけたのは、画家の田能村竹田らと交流した50歳代の後半のことでした。その多くは為書、つまり誰かのために描かれた私信のようなもので、一連の作品からは木米の幅広い文人ネットワークを知ることができました。

「これまでに集めた各地の陶土をこね合わせ、その中に私の亡骸を入れて窯で焼き、山中に埋めて欲しい。長い年月の後、私を理解してくれる者が、それを掘り起こしてくれるのを待つ。」とした木米の大胆な遺言も興味深いかもしれません。


現代における木米の再評価の1つのきっかけになり得るような回顧展だったのではないでしょうか。作品は質量ともに大変充実していました。

会期中、書画を中心に展示替えがあります。詳しくは出品リストをご覧ください。

『没後190年 木米』出品作品リスト(PDF)

巡回はありません。3月26日まで開催されています。

『没後190年 木米』 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2023年2月8日(水)~3月26日(日)
休館:火曜日。*3月21日は18時まで開館
時間:10:00~18:00(金・土は20時まで)
 *2月22日(水)、3月20日(月)は20時まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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画家、佐伯祐三の回顧展が東京ステーションギャラリーにて開かれています

大正から昭和にかけて活動し、わずか30歳の若さで世を去った佐伯祐三は、主に大阪、東京、パリを拠点とすると、それぞれの街の風景を熱量をもって描き続けました。



その佐伯の東京での18年ぶりの回顧展が『佐伯祐三 自画像としての風景』で、展示の内容についてイロハニアートに寄稿しました。

佐伯祐三の歩みを回顧展とともにたどる|『佐伯祐三 自画像としての風景』 | イロハニアート

今回の回顧展では最初に佐伯の残した自画像が展示されていて、とりわけ同じ年に描きながらも大きく画風を変えた『パレットをもつ自画像』と『立てる自画像』に目を引かれました。

佐伯は1924年1月よりパリへと渡るとフォーヴィスム運動を率いた画家のヴラマンクと面会していて、裸婦を描いた作品を見せるも「このアカデミック!」と一蹴されたことから、独自の表現を模索しはじめました。

それに続くのが佐伯が国内で描いた風景画などで、特に2度の渡欧期に挟まれた一時帰国時代と呼ばれる時期の作品をまとめて展示していました。

佐伯は一時帰国時代において、アトリエに近かった東京の「下落合風景」と大阪の「滞船」の2つの風景に強い関心を抱いていて、それぞれ電柱や電線、また帆柱やロープといった中空に伸びる線を描きこみました。



ハイライトを飾るのは佐伯がパリで描いた風景画で、とりわけ2度目における石造りの壁や石畳が連なる街並みを猛烈な勢いで描いた作品には大変な迫力が感じられました。

最晩年の佐伯が新たに見出したのが、パリから東へ40キロほどの位置にある小さな村、ヴィリエ=シュル=モランで、パリとは異なった素朴な田舎の佇まいを力強く太い線と構築的な構図によって捉えました。



パリの石造りの建物や壁を描いた絵画を、佐伯の生きた時代に建てられた当時のれんが壁の残る展示室で鑑賞できるのも嬉しいところかもしれません。代表作を含む約140点もの作品が並んでいて、質量ともに不足はありませんでした。

4月2日まで開催されています。なお東京での展示を終えると大阪中之島美術館へ巡回します。*会期:2023年4月15日(土)〜6月25日(日)

*冒頭の展示室風景の写真は、プレス内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。

『佐伯祐三 自画像としての風景』 東京ステーションギャラリー
会期:2023年1月21日(土) 〜4月2日(日)
休館:月曜日(3月27日は開館)。
料金:一般1400円、高校・大学生1200円、中学生以下無料。
 *オンラインでの日時指定券を販売。
時間:10:00~18:00。
 *金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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日本民藝館にて『生誕100年 柚木沙弥郎展』が開かれています

1922年に生まれた柚木沙弥郎は、20代半ばにして染色の道に進むと、染色を中心にガラス絵、版画、肉筆、絵本などを制作し続け、高く評価されてきました。



その柚木の生誕100年を期して開かれているのが『生誕100年 柚木沙弥郎展』で、展示の見どころについてPenオンラインに寄稿しました。

柚木沙弥郎の染色と民藝のコラボレーションが実現!日本民藝館にて展覧会が開催中|Pen Online

今回は国内屈指の130点を超える柚木コレクションより、初作品から近作に至る染色が公開されていて、本館正面の大階段に掲げられた注染幾何文布や型染布など、歴史ある建物を鮮やかに彩っていました。

柚木は1947年、染色の道に進むために日本民藝館の創設者である柳宗悦を訪ねると、芹沢銈介を紹介され、職人のもとで勉強するように勧められました。そして静岡県由比町にある正雪紺屋に住み込んで、染色の基礎を学んでいきました。いわば柚木にとって日本民藝館とは創作の原点とも呼べるかもしれません。

ハイライトは大展示室にて行われている「古作との併陳」で、柚木の染色とともに同館の所蔵する工芸品や土偶といったプリミティブな造形品があわせて並んでいました。幾何文布とともに統一新羅の犬型土偶が展示されていたりするなど、時代や地域を超えた作品同士の邂逅も面白いのではないでしょうか。


私が出向いた日はちょうど西館の公開日だったこともあり、会場内はかなり賑わっていました。日本民藝館だからこそ実現した柚木の染色と民藝、さらには建物のコラボに多くの人々が魅了されるのかもしれません。



大展示室のガラスケースの展示のみ撮影が可能です。(本エントリの写真も撮影可能エリアで撮影しました。)

4月2日まで開催中されています。

『生誕100年 柚木沙弥郎展』 日本民藝館
会期:2023年1月13日(金)〜4月2日(日)
休館:月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)
時間:10:00~17:00。 *入館は16時半まで
料金:一般1200円、大学・高校生700円、中学・小学生200円。
住所:目黒区駒場4-3-33
交通:京王井の頭線駒場東大前駅西口から徒歩7分。駐車場(3台分)あり。
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静嘉堂@丸の内にて「七福うさぎ」が公開されています

昭和の名工である京都の人形司、丸平大木人形店の五世大木平藏が作った御所人形、通称「七福うさぎ」が、静嘉堂@丸の内にて公開されています。



その『初春(はつはる)を祝う ―七福うさぎがやってくる!』の見どころについて、イロハニアートへ寄稿しました。

七福うさぎの魅力に迫ろう!静嘉堂@丸の内にて開催中 | イロハニアート

この「七福うさぎ」とは、三菱第四代社長で静嘉堂のコレクションを拡充した岩﨑小彌太の還暦を祝い、夫人の孝子からの特別の注文により作られた『木彫彩色御所人形』のことで、小彌太が卯年であることから人形にはうさぎの冠がつけられました。

人形の数は全部で58体に及んでいて、七福神たちの「宝船曳」と「興行列」を中心に、「鯛車曳」、「楽隊」、「餅つき」の5つのグループからなっていました。

いずれも笑みを浮かべながら楽器を奏でたり餅をつくなど、楽しそうに寿ぎの宴を繰り広げていて、それこそ新年を寿ぐにふさわしい作品といえるかもしれません。

また展示では「七福うさぎ」のほかに、日本や中国の寿ぎの絵画なども公開されていて、不老不死や多産の象徴であったうさぎがさまざまに表現されている様子を見ることができました。

一連のうさぎの作品で目を引いたのは、清末期の宮廷画家だった李培雨の『兎図』と『双兎図』で、柘榴の木や竹といった植物とともに、白と黒のうさぎが鮮やかな色彩にて描かれていました。


このほかにも丸の内へ移転開館記念展『響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―』でも人気を集めた国宝の『曜変天目』も公開されていて、器の中に広がる神秘的な光のきらめきを目の当たりにできました。

2月4日まで開催されています。

『初春(はつはる)を祝う ―七福うさぎがやってくる!』 静嘉堂@丸の内@seikadomuseum
会期:2023年1月2日(月・振休)〜2月4日(土)
休館:月曜日、1月10日(火)
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
 *金曜日は18時まで開館
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
交通:東京メトロ千代田線二重橋前〈丸の内〉駅3番出口直結。JR線東京駅丸の内南口より徒歩5分。
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建築家、ガエ・アウレンティの展覧会がイタリア文化会館にて開催されています

イタリアの建築家のガエ・アウレンティ(1927~2012年)は、家具や照明といったデザインの分野で頭角を現すと、のちに建築も手がけ、オルセー美術館をはじめとする美術館のリノベーションプロジェクトにて卓越した才能を発揮しました。



そのアウレンティの業績を紹介する『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』の内容について、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

ガエ・アウレンティの知られざる足跡とは?イタリア文化会館にて開催中 | イロハニアート

今回の展覧会では「アーバンインテリア」、「美術館を巡ること」、それに「文化とコンテクスト」の3つのテーマを基本に、ドローイングから写真、模型、それに建築素材などが100点以上を公開されていて、多くの資料から主に建築を中心とするアウレンティの仕事をたどることができました。

アウレンティはオルセー美術館のリノベーションプロジェクトにおいて、内装の設計を任されていて、1900年に遡る古い鉄道駅の面影を残しつつも、機能的でかつ美的な空間を作り上げることに成功しました。

そしてこのプロジェクトをきっかけに、ポンピドゥー・センター国立近代美術館をはじめ、パラッツォ・グラッシ、さらにサンフランシスコ・アジア美術館などの美術館の改修などを手がけると、リノベーションがさほど注目されていない時代に、保存と活用のプロジェクトの重要性を知らしめたことで高く評価されました。

日本においてアウレンティは展示の会場であるイタリア文化会館、およびイタリア大使館事務棟の設計を担っていて、イタリア文化会館では日本の朱色漆とイタリアンカラーの融合をイメージした赤をファサードに展開しました。



このほか、アウレンティが自らの展覧会のために来日した際、全国各地を撮影した写真なども興味深いかもしれません。一連の資料を通して、まだ圧倒的に男性の職場であった建築の分野で自らの道を切り開いたアウレンティの多面的な業績を知ることができました。


入場は無料です。3月12日まで開催されています。

『ガエ・アウレンティ 日本そして世界へ向けた、そのまなざし』 イタリア文化会館エキジビションホール(@IICTokyo

会期:2022年12月11日(日)~2023年3月12日(日)
休館:月曜日、1月31日(火)~2月2日(木)、2月28日(火)~3月2日(木)。
時間:11:00~17:00
料金:無料
住所:千代田区九段南2-1-30

交通:東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線九段下駅2番出口から徒歩10分。
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諏訪敦の個展『眼窩裏の火事』が府中市美術館にて開かれています

1967年に生まれた画家、諏訪敦は「視ること、そして現すこと」を問い続けると、緻密で再現性の高い画風の絵画を手がけ、主に肖像画などで高い評価を得てきました。



その諏訪敦の公立美術館としては11年ぶりの個展が府中市美術館にて開かれていて、全3章の展示の見どころについてPenオンラインに寄稿しました。

写実絵画のトップランナーと目されながら、脱却を続ける諏訪敦の個展が府中市美術館にて開催中|Pen Online

まずはじめの「棄民」と題する章では、終戦直後の旧満州で病没した祖母をテーマにした作品が公開されていて、哈爾浜の難民収容所にてチフスにより病没した祖母をモデルとした『HARBIN 1945 WINTER』などを見ることができました。



諏訪は父の死をきっかけに、かつて明かされてこなかった祖母の旧満州での過酷な出来事を知ると、協力者を得ながら現地取材を行っていて、その一連のドキュメントとも言える成果を絵画や映像にて表現しました。

第2章「静物画について」では、コロナ禍において肖像画の制作がままならない中、『芸術新潮』(2020年6〜8月号)誌上で連載に取り組んだ静物画が展示されていて、柿やグラスといった身近なものを起点に、写実絵画の歴史を踏まえて描かれた作品などが並んでいました。

ラストの第3章では、1999年より描き続けてきた舞踏家・大野一雄をはじめとする肖像画などが並んでいて、とりわけ大野一雄の踊りを記録映像などを頼りにコピーするパフォーマーの川口隆夫をモデルとした作品が目立っていました。



そこには川口の踊るすがたがいくつもの腕などを伴って複層的に描かれていて、大野から川口へと受け継がれる表現が重なり合う様子を見ることができました。その時空を超えたようなシュールとも呼べる画面には、いわゆる写実を超えた諏訪の新たな境地が指し示されているのかもしれません。


静物画が台上に置かれた博物館の標本室を思わせる展示室から、最新作『Mimesis』の展示された白く明るいスペースへと続く空間構成も魅力的ではないでしょうか。作品そのもののはもとより、対象へ真摯に向き合いつつ、長い時間をかけてリサーチを重ね、絵画として表していく諏訪の制作のアプローチにも大いに心を惹かれるものを感じました。



2月26日まで開催されています。おすすめします。

『諏訪敦「眼窩裏の火事」』 府中市美術館@FuchuArtMuseum
会期:2022年12月17日(土)~2023年2月26日(日)
休館:月曜日(1月9日は開館)、12月29日(木)~2023年1月3日(火)、1月10日(火)。
時間:10:00~17:00
 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般700(560)円、大学・高校生350(280)円、中学・小学生150(120)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *府中市内の小中学生は「学びのパスポート」で無料。
場所:府中市浅間町1-3 都立府中の森公園内
交通:京王線東府中駅から徒歩15分。京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車。
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山種美術館にて『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』が開かれています

四季折々、豊かな自然に囲まれた日本では、古くから人々が自然を題材にした絵を描いてきました。


米谷清和『暮れてゆく街』 昭和60年 *会期中も撮影OK

その「日本の風景」をテーマとしたのが『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』で、展示の内容についてイロハニアートへ寄稿しました。

山種美術館のコレクションで愛でる日本の風景『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』が開催中 | イロハニアート

まず今回の展覧会では、江戸時代の酒井抱一や椿椿山をはじめ、明治から大正時代の川端玉章や山元春挙、それに石田武や田渕俊夫いった現代へと至る幅広い作品が紹介されていて、時代によってさまざまに描かれた風景の諸相を見ることができました。

また同館の定評のある日本画だけでなく、安井曽太郎や黒田清輝などの洋画も一部に展示されていて、山種コレクションの意外な一面を知ることもできました。

山元春挙の『火口の水』とは、三日月のもと、溶岩の岩肌が露出した雪山を描いたもので、火口湖や溶岩のすがたを実に写実的に表していました。山元は写真に関心を抱いた画家で、実際に登山して撮影し、それを元にして絵画を描きました。



最大の見どころは、近年展示されてこなかった作品が多数お披露目されていることで、山本梅逸の『蓬莱山図』や関出の『廃園濃紫』などは17年ぶり、また安井曽太郎の『初秋遠山』に至っては37年ぶりに公開されました。

また作品が発表されて以降、初めて連作4点が展示された石田武の『四季奥入瀬』も、『春渓』と『瑠璃』が37年ぶりに公開されました。

米谷清和の『暮れてゆく街』とは、現在は営業を終えた東急百貨店東横店を正面に、渋谷の西口バスターミナルを舞台とした作品で、家路へと急いだり待ち合わせをする人々のすがたも描かれていました。


最後に学生の皆さんにお得な情報です。山種美術館では今回の展覧会に限り、「冬の学割」として大学生・高校生の観覧料が通常1000円のところ半額の500円となります。

2023年2月26日まで開催されています。*12/29(木)~1/2(月)は年末年始休館。

『日本の風景を描く―歌川広重から田渕俊夫まで―』 山種美術館@yamatanemuseum
会期:2022年12月10日(土)~2023年2月26日(日)
休館:月曜日。ただし1/9(月)は開館、1/10(火)は休館。12/29(木)~1/2(月)は年末年始休館。
時間:10:00~17:00
 *入館は16時半まで。
料金:一般1300円、中学生以下無料。
 *冬の学割:大学生・高校生500円(通常1000円のところ半額)
 *きもの割引:きもので来館すると一般200円引、大学生・高校生は100円引。
 *オンラインチケットあり。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。
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アーティゾン美術館にて『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』が開かれています

ルイ14世によって1669年に設立されたパリ・オペラ座は、現在に至るまでさまざまなオペラやバレエを上演し、作曲家や台本作家、また歌手やオーケストラ、はたまた美術家といった表現者たちが深く関わっていきました。



そのパリ・オペラ座の魅力と歴史を紐解く『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』の見どころについて、イロハニアートに寄稿しました。

フランスから200点の作品が来日!かつてないスケールの展示でたどるパリ・オペラ座の歴史 | イロハニアート

今回の展覧会では、フランスのオペラやバレエ関係の資料を多く所蔵するフランス国立図書館から約200点の作品と資料がやって来ていて、あわせてオルセー美術館のエドガー・ドガの『バレエの授業』といった国内外から集結したオペラ座に因む作品が紹介されていました。


ジャン=アントワーヌ・ヴァトー『見晴らし』 1715年 ボストン美術館

またルイ14世の時代の舞台装飾家や衣装デザイナーから、19世紀のグランド・オペラの作曲家やロマンティック・バレエのダンサー、さらに21世紀の演出家に至るまで、パリ・オペラ座にて活躍した表現者を丹念に辿っていて、さまざまな分野の芸術が関わって初めて成立する総合芸術としてのオペラが浮き彫りとなっていました。


右:エドゥアール・マネ『オペラ座の仮装舞踏会』 1873年 石橋財団アーティゾン美術館 左:エドゥアール・マネ『オペラ座の仮面舞踏会』 1873年 ワシントン、ナショナル・ギャラリー

フランスの画家、マネもオペラ座を題材とした作品を制作していて、会場ではアーティゾン美術館の所蔵する『オペラ座の仮面舞踏会』と、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの所蔵する同名の作品が隣り合わせに並んで公開されていました。


エドガー・ドガ『舞台袖の3人の踊り子』 1880〜1885年頃 国立西洋美術館

このマネの『オペラ座の仮面舞踏会』をはじめ、ドガの『舞台袖の3人の踊り子』、さらにウジェーヌ・ジローの『オペラ座の舞踏会』やボナールの『桟敷席』といった作品も目立っていて、絵画表現よりオペラ座を取り巻く諸相を見ることができました。

このほか、音楽ファンとしてはモーツァルトやヴェルディ、ロッシーニにワーグナーらの自筆譜が展示されていたのも見逃せないポイントと言えるかもしれません。

またワーグナーに関しては、ルノワールの描いた『タンホイザーの場面(第1幕)』といった絵画をはじめ、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の舞台デザインのための模型、さらに『タンホイザー』の衣装小物として使われた冠なども見どころだったのではないでしょうか。


左:テオフィル・アレクサンドル・スタンラン『夢(ル・レーヴ)』のポスター 1890年 兵庫県立芸術文化センター

これほど豊富な作品と資料でパリ・オペラ座を紹介する展覧会は、かつて一度も開かれたことがなかったかもしれません。質量ともに想像以上に充実していました。


2023年2月5日まで開催されています。

『パリ・オペラ座−響き合う芸術の殿堂』 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2022年11月5日(土)〜2023年2月5日(日)
休館:月曜日。*1月9日は開館。12月28日〜1月3日、1月10日は休館。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1800円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(2000円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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『ブラチスラバ世界絵本原画展』が千葉市美術館にて開かれています

スロバキア共和国の首都ブラチスラバで2年ごとに開催される「ブラチスラバ世界絵本原画展」には、日本はもとより、近年は韓国といったアジアの地域の絵本作家も数多くの受賞作家を輩出してきました。



この「ブラチスラバ世界絵本原画展」を起点に、近年の日韓の絵本文化を紹介するのが『ブラチスラバ世界絵本原画展 絵本でひらくアジアの扉-日本と韓国のいま』で、展示の内容についてイロハニアートへ寄稿しました。

ブラチスラバ世界絵本原画展でアジアの扉を開こう! | イロハニアート

さて今回の見どころは、「日本と韓国のいま」とのサブタイトルが示すように、日韓の出品作家による原画と絵本にあるといえるかもしれません。

日本とは異なり、創作絵本の歴史の浅い韓国では、イラストレーションを中心とした絵本が作られ、従来の絵本の枠にとらわれることがなく、新しいメディアとして世代を超えて絵本を受容するような文化が築かれれいきました。

そして原画においてもデジタルの技術が多く用いられ、文字のないサイレントブックが作られたり、装丁でも表紙に穴を開けるなど、日本ではあまり見られないようなユニークな試みがなされました。

また展示では単に原画や絵本を公開するだけでなく、日韓の出版社の編集者にインタビューを行ったり、作家に絵本づくりを聞き取るなど、「どのように絵本が作られるのか」という点にも掘り下げていました。韓国のAIやITを組み合わせたコンテンツの開発や普及活動も興味深い内容だったかもしれません。



『ブラチスラバ世界絵本原画展』の受賞作品を起点に、日韓を取り巻く絵本文化の「いま」を知ることができる展覧会だったのではないでしょうか。比較文化の観点からも見入るべき点の多い内容でした。


北城貴子『Resonating Light 1』 2009年

なお同展は、『新収蔵作品展―現代美術の作品を中心に』と同時開催で、8階展示室にて『ブラチスラバ世界絵本原画展』、そして7階にて『新収蔵作品展―現代美術の作品を中心に』が行われています。


本城直季『small planet 幕張メッセ』 2021年 ほか

『新収蔵作品展―現代美術の作品を中心に』では、2021年に市内で開催された「CHIBA FOTO」に出品された写真作品をはじめ、「2000年以降の絵画」と題し、福田美蘭や杉戸洋、それに工藤麻紀子といった現代の作家の絵画が目立っていました。あわせて鑑賞されることをおすすめします。


12月25日まで開催されています。

『ブラチスラバ世界絵本原画展 絵本でひらくアジアの扉-日本と韓国のいま』 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2022年11月12日(土)~12月25日(日)
休館日:12月5日(月)*休室日:11月21日(月)。
時間:10:00~18:00。
 *入場受付は閉館の30分前まで
 *毎週金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *7階「新収蔵作品展」、常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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太田記念美術館にて『闇と光―清親・安治・柳村』が開催されています

明治時代初期、浮世絵師の小林清親らによって描かれた光線画は、西洋に由来する油彩画や石版画などの表現を木版画に取り入れ、のちの新版画の先駆けとも呼ばれるほど新たな世界を切り開きました。



その光線画の魅力に迫る『闇と光―清親・安治・柳村』の内容について、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

「光線画」を知っていますか?明治の人々が見た闇と光。 | イロハニアート

まず会場では光線画の始祖である小林清親の作品が紹介されていて、「夜」と題したコーナーでは明治時代の暗い夜の中、ガス灯の点る東京の街を描いた作品などを見ることができました。

輪郭線を省略し、色の面で人物を捉え、ぼかしや網目、短い横線によって陰影をつけるのが光線画の特徴で、いずれも光と闇の対比を強調して描いていました。



吉原遊廓の南西にあった神社を舞台とした『浅草田甫太郎稲荷』に心を引かれました。誰もいない神社から鳥居越しに川面を望んでいて、あたりは裏寂れるようにして静まり返っていました。この神社は幕末こそ多くの参拝客で賑わっていたものの、明治に入ると廃れたとされていて、清方はかつての名所だった頃を懐かしむようにして描き出しました。

この清方の弟子だったのが井上安治で、四つ切判のシリーズの『東京真画名所図解』を出版しては、文明開化にて変化する東京の風景などを描きました。

もう1人の浮世絵師である小倉柳村は、生没年や経歴が不明とされていて、光線画を手がけたものの作品はわずか9点ほどしか残されませんでした。

とはいえ、湯島天神の男坂の上に立つ2人の男性を満月ともに描いた『湯嶋之景』などは、情緒深く、かつミステリアスな雰囲気をたたえていて、清親や井上とは異なった魅力が感じられました。


最後に展示替えの情報です。会期中、前後期にてすべての作品が入れ替わります。

『闇と光―清親・安治・柳村』出品リスト(PDF)
前期:11月1日(火)~11月23日(水・祝)
後期:11月26日(土)~12月18日(日)

詳しくは公式サイトより出品リストにてご確認ください。


前後期をあわせて出品される約200点の光線画は、当時制作された作品の約9割に相当します。まさに光線画の展覧会の決定版といえそうです。

12月18日まで開催されています。

『闇と光―清親・安治・柳村』 太田記念美術館@ukiyoeota
会期:2022年11月1日(火)~12月18日(日)
 *前期:11月1日(火)~11月23日(水・祝)、後期:11月26日(土)~12月18日(日)前期と後期で全点入れ替え。
休館:月曜日、および11月24日(木)、25日(金)。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般1000円、大・高生700円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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東京造形大学附属美術館にて『ヤマザキマリの世界』が開かれています

『テルマエ・ロマエ』 の漫画や著作で人気を集め、東京造形大学の客員教授も務めるヤマザキマリにスポットを当てた展覧会が、東京造形大学附属美術館にて行われています。



その『ヤマザキマリの世界』の内容について、Penオンラインに寄稿しました。

漫画家・ヤマザキマリの創作の源とは? 学生とともに作り上げた展覧会が開催中|Pen Online

まず会場では代名詞とも言える『テルマエ・ロマエ』 をはじめとした漫画の原稿などが並んでいて、あわせて「漫画ができるまで」と題し、制作プロセスも紹介されていました。


さらに『プリニウス』や『オリンピア・キュクロス』などの原画も公開されていて、ヤマザキマリの漫画家としての活動を追うことができました。

これに続くのがヤマザキマリの人生の足跡、ないし画家としての活動をたどる展示で、幼少期のお絵描きから15歳の時の「女性の肖像」、はたまたシュルレアリスム風のドローイングなどが並んでいて、画家としての原点を見ることができました。


『山下達郎の肖像』と『立川志の輔の肖像』とは、ヤマザキマリが実に22年ぶりに描いた油彩の肖像画で、油彩の豊かな質感表現と、モデルの特徴を捉えた緻密とも言える描写に目を引かれました。ヤマザキマリは現在、漫画家、および著述家として幅広く活動していますが、そもそもイタリアで油彩を学ぶなど画家を志していただけに、今後は画家としても新たな方向性が示されるのかもしれません。

今回の個展で最も重要なのは、単にヤマザキマリを資料で紹介するのではなく、東京造形大学の学生による二次創作と言える作品も公開されていることでした。漫画作品を組み合わせてヤマザキマリの肖像を表したモザイクアート『ヤマザキマリの肖像』も面白いのではないでしょうか。



一連の附属美術館に続き、第2会場のZOKEIギャラリーでも主にヤマザキマリの著作に関する展示が行われていて、作家の軌跡を示す年表などとあわせて見ることができました。



漫画、著述、さらにメディアへの出演など、実に幅広く活躍するヤマザキマリの創作世界の魅力を、東京造形大学の学生が向き合いながら巧みに引き出した好企画といえるかもしれません。手作り感のある展示内容も魅力的に思えました。


日曜・祝日は休館日ですが、11月6日は開館します。また会期中の閉館時間は16:30ですが、11月7日(月)と11月25日(金)に限り、19:00まで開館します。(最終入館は閉館の30分前まで)



入場は無料です。11月26日まで開催されています。*第2会場ZOKEIギャラリーの会期は11月18日まで。

『ヤマザキマリの世界』@yamazakimari_W) 東京造形大学附属美術館@tzuartmuseum
会期:2022年10月25日(火)~11月26日(土)
休館:日曜・祝日。
 *10月30日(日)と11月6日(日)は開館。
料金:無料
時間:10:00~16:30。
 *11月7日(月)、11月25日(金)は19:00まで開館
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:東京都八王子市宇津貫町1556
交通:JR線相原駅よりスクールバス5分(徒歩15分)。
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『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』が開催中です

今年創立150周年を迎えた東京国立博物館は、国宝89件、重要文化財648件を含む、実に約12万件にも及ぶコレクションを有し、総合文化展などで期間や作品を入れ替えながら公開してきました。



その東博の国宝89件のすべてを公開する『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』の見どころについて、WEBメディアのイロハニアートへ寄稿しました。

国宝以外も見どころ満載!『国宝 東京国立博物館のすべて』でたどる東博150年の歩み | イロハニアート

まず第1部の「東京国立博物館の国宝」では、89件の国宝を、絵画、書跡、東洋絵画、東洋書跡、法隆寺献納宝物、考古、漆工、刀剣の8分野に分けて展示していて、絵画では長谷川等伯の『松林図屛風』をはじめ、合戦絵巻の代表作として知られる『平治物語絵巻 六波羅行幸巻』などを鑑賞できました。

なおこれらの国宝は会期中、考古、及び刀剣の全点を除くと展示替えが行われていて、一度にすべての国宝が公開されているわけではありませんでした。

会期はおおむね10月18日~30日、11月1日~13日、11月15日~27日、11月29日~12月11日の4つに分かれていて、一部の国宝に関しては出展会期がさらに短い場合もありました。詳しくは公式サイトより出品リストでご確認ください。

『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』出品リスト
http://tohaku150th.jp/pdf/list_jp_1007.pdf

こうした一連の国宝の展示に続くのが、第2部の「東京国立博物館の150年」で、明治時代から今に至る東博の歴史を所蔵品から紹介していました。



ここでは東博誕生のきっかけになった1872年の旧湯島聖堂大成殿で開催された博覧会をはじめ、上野の内国勧業博覧会やキリンの剥製といった戦前の意外な収集物などを公開していて、東博の長きに渡る歩みを目の当たりにできました。

また関東大震災での被害や戦時中の疎開などもパネルや映像にて紹介されていて、東博の所蔵品がどのように引き継がれていったのかについても知ることができました。

このほか、戦前では1940年に開かれた正倉院展を描いた絵巻物、『くちなわ物語』も面白い作品といえるかもしれません、そこには東博へ大勢の観客が詰めかけながら長蛇の列を作る光景が表されていて、20日間の会期で40万名の入場者を記録したという展示の熱気すら伝わってきました。

戦後では東博がコレクションを拡充していった経緯を辿りながら、保存や修復などの活動について紹介していて、尾形光琳の『風神雷神図屏風』などに目を引かれました。


『金剛力士立像』 平安時代・12世紀

最後にチケットの情報です。事前より注目の美術展だっただけに人気が極めて高く、すでに現時点で購入可能な会期のチケットは売り切れています。


菱川師宣『見返り美人図』 江戸時代・17世紀 *『金剛力士立像』とともに撮影が可能です。

今後、11月15日以降の入場については11月1日、11月29日以降の分については11月15日にそれぞれチケットが販売されます。


私も『夏秋草図屏風』が出展する11月15日以降に再訪する予定ですが、後半も完売する可能性が高いため、それぞれ発売開始日に確保しておいた方が良さそうです。

12月11日まで開催されています。

『創立150年記念 国宝 東京国立博物館のすべて』@tohaku150th) 東京国立博物館 平成館(@TNM_PR
会期:2022年10月18日(火) ~12月11日(日)
休館:月曜日
時間:9:30~17:00
 *金曜・土曜日は20:00まで
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2000円、大学生1200円、高校生900円、中学生以下無料。
 *当日に限り総合文化展も観覧可。
 *事前予約制
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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東京ステーションギャラリーにて『鉄道と美術の150年』展がはじまりました

今年、開業150周年を迎えた日本の鉄道と美術の歴史をたどる展覧会が、東京ステーションギャラリーにて開催されています。



その『鉄道と美術の150年』展の見どころや内容について、Penオンラインに寄稿しました。

日本の鉄道はどのように描かれていた? 美術との関係からたどる『鉄道と美術の150年』が開催中|Pen Online

今回の展覧会では、明治時代の錦絵などにはじまり、主に鉄道をモチーフとした絵画や写真、それに現代アートなど約150点の作品を展示していて、時に深く関わりつつも、時代によって変化する鉄道と美術の有り様を丹念に紐解いていました。

1872年に新橋―横浜間で開業した鉄道は、当初、錦絵の格好の題材として取り上げられ、それに少し遅れて、1890年代以降には日本画や洋画でも鉄道が描かれるようになりました。



いわゆる「鉄道絵画」として目を引くのは、都路華香の『汽車図巻』や赤松麒作の『夜汽車』、それに長谷川利行の『汽罐車庫』などで、中には満鉄の特急「あじあ」号を染織に表現した山鹿清華の『驀進』といった珍しい作品も公開されていました。

戦後の作品で見入るのは、当時の世相を切り取ったようなスケッチ、ないし写真でした。そのうち佐藤照雄は『地下道の眠り』にて、空襲などで家を失った人々が上野駅の地下道にて寝泊まりする様子を描いていて、終戦後の人々の苦しい暮らしぶりを如実に伝えていました。

また富山治夫は「現代語感」において、人が詰め込まれた中央線の通勤列車を撮影していて、輸送力が限界に達していた1960年代の通勤地獄を目の当たりにできました。この他、東北各地から東京へ集団就職する光景を撮影した大野源二郎の写真も印象に深いかもしれません。

さらに中村宏の『国鉄品川』や『ブーツと汽車』や香月泰男の『煙』など、鉄道に着想を得ながら、独自の世界へと展開するような絵画にも興味を引かれました。


この他、横尾忠則や元田久治、それに本城直季や宮島達男、またchim↑pomといった現代アートにも目を引く作品が少なくありません。



中央停車場として建設され、1914年に開業した歴史ある東京駅に位置する東京ステーションギャラリーならではの好企画といえるのではないでしょうか。国内の40ヶ所からの所蔵先から集められた作品は、実に150点ほどに及んでいて、想像以上に充実していました。



他館への巡回はありません。2023年1月9日まで開催されています。おすすめします。

『鉄道と美術の150年』 東京ステーションギャラリー
会期:2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月・祝)
休館:月曜日。10月11日、年末年始(12月29日〜1月1日)
 ※10月10日、1月2日、1月9日は開館
料金:一般1400円、高校・大学生1200円、中学生以下無料。
 *オンラインでの日時指定券を販売。
時間:10:00~18:00。
 *金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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デザイナー、宮城壮太郎の回顧展が世田谷美術館にて開催中です

1951年に生まれ、2011年に60歳の若さで亡くなった宮城壮太郎は、プラスやアスクルの事務用品のデザインを手がけただけでなく、電気製品からホテルのサイン計画に携わるなど幅広く活動しました。



その宮城の仕事を紹介する『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』について、Penオンラインに寄稿しました。

気づかぬうちに使っていた⁉︎ デザイナー宮城壮太郎が手がけたプロダクトとは|Pen Online

高校在学中にデザイナーを志し、大学を卒業後に浜野商品研究所に勤務した宮城は、全天候型防水カメラ「HD-1」の開発などに携わると、のちに独立しては宮城デザイン事務所を設立しました。

そして創業期より関わったアスクルではロゴマークからオリジナル商品などのデザインを担うと、村上タオルや山洋電気でもデザインに携わっては多くの製品を生み出していきました。



いずれも製品本来の機能性を損なうことなく、シンプルでかつ主張しすぎないデザインを特徴としていて、例えば山洋電気ではデザイン顧問となり、モーターやファンでグッドデザイン賞を受賞しました。

またプラスの文房具では手に収まるホッチキスなども手がけていて、今も販売され続けるなど、多くの人々に使われてきました。まさに生活や日常に根ざしているデザインといえるかもしれません。

母校の千葉大学などで非常勤講師を担った宮城は、後進にデザインを教えるなど教育者としても活動していて、履修生に向けて「真のモノの価値 真に人間の幸せのために」としたメッセージも紹介されていました。


山洋電気の山本茂生をはじめ、チェリーテラスの井手櫻子など、宮城と仕事に携わった人物のインタビュー映像も興味深いのではないでしょうか。多方面に活動していた宮城の人となりも伝わるかのようでした。

11月13日まで開催されています。

『宮城壮太郎展 使えるもの、美しいもの』 世田谷美術館@setabi_official
会期:2022年9月17日(土)~11月13日(日)
休館:月曜日。ただし9月19日(月・祝)、10月10日(月・祝)は開館。9月20日(火)、10月11日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
 *最終入場は閉館の30分前まで
料金:一般1200円、65歳以上1000円、大学・高校生800円、中学・小学生500円。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分
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