「写真家ドアノー/音楽/パリ」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「写真家ドアノー/音楽/パリ」
2021/2/5~3/31



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「写真家ドアノー/音楽/パリ」のプレス内覧会に参加してきました。

フランスを代表する写真家のロベール・ドアノー(1912~1994)は、パリを舞台に日常の瞬間を切り取る写真で知られ、世代を超えた人気を得てきました。


「ロベール・ドアノーのセルフポートレート」 ヴィルジュイフ 1949年

そのドアノーの音楽をテーマとした写真で構成したのが「写真家ドアノー/音楽/パリ」で、街角にあふれた音楽の場面のみならず、シャンソン、オペラ、ジャズ、ロックなどのアーティスト写真、約200点が公開されていました。

はじまりは主に第二次世界大戦を終えたパリを舞台にした写真で、長い抑圧から解放され、自由に外へ出て音楽を楽しむ人々の様子が写されていました。


中央:「サン=ジャン=ド=リュズのブラスバンド」 1952年7月14日

この頃のパリでは生活のあらゆる場面に音楽が浸透していて、街角にはアコーデオン、ヴァイオリン、打楽器奏者や歌手によって編成されたグループが、大衆とともに歌う光景が見られました。いわば自由と解放の象徴が音楽でもありました。


右:「流しのピエレット・ドリオン」 ティクトンヌ通り、パリ 1953年2月

流しのアコーディオン弾きだったピリエット・ドリオンを主役としたのが「流しのピエレット・ドリオン」で、彼女に惚れ込んだドアノーは、店から店へと移動しては歌う姿に密着して撮影しました。当時、ドアノーはジャーナリストで友人のロベール・ジローと夜の街を撮ることを日課としていて、パリの素顔に精通していたジローの手引きにより、市井の生き生きとした街の音楽家を写真に収めました。


右:「ル・バル・デ・タトゥエのフレエル」 パリ5区 1950年6月

戦後のシャンソン界の立役者を写したポートレートは、雑誌のために制作された作品で、いずれもシャンソン文化の隆盛に大きな役割を果たしたキャバレーで撮影されました。

パリではカフェやキャバレーが文化の発信地として栄えていて、ドアノーは日中での仕事を終えると、第二次世界大戦後のキャバレー文化の中心であったサン=ジェルマン=デ=プレへ繰り出しては、ジローとともに夜のパリを写しました。


右:「ル・プティ・サン=ブノワのマルグリット・デュラス」 サン=ジェルマン=デ=プレ 1955年

カフェやキャバレーには、多くの文化人や知識人、芸術家らが交流していて、そうした人物も写真のモデルとなりました。小説家で映画監督として活躍したマルグリット・デュラスを写した「ル・プティ・サン=ブノワのマルグリット・デュラス」は、テラスでビールを楽しむ一瞬のくつろいだ姿を見事に捉えた作品と言えるかもしれません。


左:「サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ」 1947年
右:「ラ・ローズ・ルージュのジュリエット・グレコ」 レンヌ通り76番地、パリ6区 1950年10月30日

サン=ジェルマン=デ=プレで象徴的存在だった女優のジュリエット・グレコを写した2枚の作品にも心惹かれました。最初の1枚は1947年にグレコが犬に手を添える様子を捉えた「サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ」で、もう1枚はその3年後にヴォーグ誌のためのルポルタージュとして写された「ラ・ローズ・ルージュのジュリエット・グレコ」でした。ともにグレコを被写体としながらも、前者からはあどけなくプライベートな心情が垣間見える一方、後者はキリリとしたような立ち振る舞いに女優としての貫禄すら感じられるかもしれません。


「サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ」 1947年

実のところ「サン=ジェルマン=デ=プレのジュリエット・グレコ」のデビュー前のグレコの姿を写した作品で、ドアノーは当地で多くの有名人に愛されていた犬のビデのルポルタージュを制作していた際、偶然にグレコと出会い撮影しました。何とも運命的な巡り合いではないでしょうか。


「『トスカ』録音中のマリア・カラス、パテ・マルコーニ・レコードのスタジオにて、ジョルジュ・プレトル指揮」 1963年5月8日

クラシック音楽やオペラに関する写真も見逃せません。戦後、レコード市場が急拡大する中、ドアノーは作曲家やオペラ歌手の仕事場や録音風景を写していて、歌手のマリア・カラスをはじめ、指揮者のシャルル・ミュンシュ、それに同じく指揮者で前衛的音楽の作曲家でもあったピエール・ブーレーズのポートレートなどが展示されていました。


第6章「オペラ」 展示写真作品

また「カルメン」や「道化師」などのオペラの舞台写真は、当時オペラを保守的として批判した雑誌のルポタージュで撮影されたもので、今回世界で初めて公開されました。


中央:「雨の中のチェロ」 1957年

チェリストであり、スキーヤーや俳優としても活動したドアノーの友人、モーリス・バケを捉えた写真も魅惑的かもしれません。バケの多彩な想像力に触発されたドアノーは、フォトモンタージュやコラージュ、分割や変形などの技術を用いて写真を数多く制作し、1981年に写真集「チェロと暗室のためのバラード」として発表しました。


「チェロと暗室のためのバラード 制作のためのフォトモンタージュ」(部分) 1970年代後半

バケ自らがチェロに傘を差し掛ける「雨の中のチェロ」など、いわばユーモラスでかつシュールな写真も少なくなく、他のポートレートシリーズとは異なった実験的な味わいも感じられました。


右:「トマ・フェルゼン」 ポルト・ド・ヴァンヴの蚤の市 1992年9月6日

1980年代に入るとドアノーは写真家としての功績を認められるようになりましたが、それでも撮影現場を愛し、新しい世代のフレンチ・ポップスのミュージシャンのレコード・ジャケットやグラビア撮影などを多く手掛けました。


1932年にロベール・ドアノーが初めて購入したローライフレックス

この他、ドアノーが1932年に初めて購入したローライフレックスの日本初公開も見どころの1つでした。なお本展は2018年から2019年にかけて、パリのフィルハーモニー・ド・パリの音楽博物館で開催された展覧会を基に、日本向けに再構成した巡回展でもあります。


「ベルトラン・タヴェルニエ監督の映画『田舎の日曜日』撮影現場にて」 1983年10月

パリの多彩な音楽シーンを臨場感に溢れたドアノーの写真で楽しめる好企画と言えるかもしれません。いわゆるコロナ禍の今、以前とは異なる生活が続く中で、音楽の喜びを享受するドアノーの写真の人々を見ていくと、どこか心が晴れるものを感じました。


基本的に予約は不要ですが、会期終盤の3月20日(土・祝)、21日(日)、27日(土)、28日(日)の4日間に限り、オンラインによる入場日時予約が必要です。


「写真家ドアノー/音楽/パリ」展示室風景

3月31日まで開催されています。

「写真家ドアノー/音楽/パリ」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:2021年2月5日(金)~3月31日(水)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜と土曜は20時まで開館。3月12日以降の夜間開館は決定次第アナウンスあり。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500円、大学・高校生700円、中学・小学生400円。
 *団体の受付は休止。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分

注)写真は内覧会の際に主催者の許可を得て撮影しました。作品はアトリエ・ロベール・ドアノー所蔵。
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