「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート」 たばこと塩の博物館

たばこと塩の博物館
「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート 自然と共生の世界」 
2021/2/6~5/16



新潟県十日町市にあるミティラー美術館は、インドのミティラー地方に伝承する壁画をはじめ、先住民族のワルリー族やゴンド族の描く現代の民俗絵画などを数多く所蔵してきました。

そのミティラー美術館のコレクションがまとまった形でたばこと塩の博物館へとやって来ました。出展数は約90点で、主に1990年前後から2000年代に描き手が制作した絵画に加え、テラコッタなどの彫刻も公開されていました。

インド北東部に位置し、ネパールと国境の接するビハール州北部の平原地帯には、約3000年にも渡って母から娘へと壁画が伝わって来ました。それらは当地において、宇宙神やラーマーヤナ、マハーバーラタなどが家を飾るように壁画として描かれました。


ジャグダンパ・デーヴィー「ラーマとシーター」 制作年不詳

今ではインド政府の美術運動などにより紙やキャンバスにも描かれるようになっていて、一連の作品をかつての王国の名であるミティラー画と呼ばれるようになりました。


ガンガー・デーヴィー「結婚式」 1990年

こうしたミティラー画の第一人者とされるのが故ガンガー・デーヴィーで、会場でも「結婚式」や「上弦の月を喰べる獅子」などの作品が展示されていました。


右:ガンガー・デーヴィー「スーリヤムッキーの木」 1990年

「スーリヤムッキーの木」はガンガ・デーヴィーの遺作となった作品で、1991年に亡くなる1年前の春に来日して描きました。中央にはまるで蛇のようにニョロニョロと伸びるクローブの木が表されていて、枝葉には鳥などの小動物が集っていました。コンクリート擬似壁と呼ばれる素材に描かれていましたが、まるで刺繍を目にするような工芸的な味わいも魅力かもしれません。


リーラ・デーヴィー「ヴィシュヌ神と宇宙創造」 1994年

ガンガ・デーヴィーに師事したリーラ・デーヴィーの「ヴィシュヌ神と宇宙創造」は、ヒンドゥー教の主神の1人であるヴィシュヌをモチーフとしていて、蓮池に身を横にしてはヘソから花が伸び、ヴィシュヌが見た夢から作られた世界の誕生の場面を描いていました。


サシカラー・デーヴィー「村の生活」 1995年

この他ではサシカラー・デーヴィーの「村の生活」も楽しい作品ではないでしょうか。大勢の人々や鳥や牛などの動物、それに草花や樹木が画面を埋め尽くすように広がっていて、黄色や青、赤といった色彩が華やかな雰囲気を醸し出していました。自然に囲まれた村での生き生きとした生活が伝わってくるようで、幾何学的でかつ装飾的な文様が広がる様子にも目を引かれました。

インド西海岸のムンバイに近いマハラシュトラ州のターネー県には、約40万人のワルリー族と呼ばれる先住民族が生活していて、男女を問わず結婚式や祭りに際して壁画を描いてきました。


ジヴヤ・ソーマ・マーシェ「村の結婚式」 1994年

かつてはロックペインティングのような原初的な絵画であったものの、ジヴヤ・ソーマ・マーシェ(1934〜2018)の手によって民話や神話を表現するようになり、ワルリー画の新たな世界が築かれました。


ジヴヤ・ソーマ・マーシェ「ベールから生まれた娘」 1996年

いずれもが赤いキャンバスやコンクリート擬似壁を支持体に、白く細いレースの網目のような線で神話的とも呼べる光景が広がっていて、あたかも壮大でかつ幻想的な歴史物語を見ているかのようでした。


ジヴヤ・ソーマ・マーシェ「魚を捕る大きな網」 1995年

ワルリー画では人物や動物が半ば象徴的に描かれているのも特徴で、ミティラーよりも大勢の人が登場し、漁や祭りに結婚式といった生活の場面をモチーフとした作品も目立っていました。


ジヴヤ・ソーマ・マーシェ「タルパーダンス」 1998年

ジヴヤ・ソーマ・マーシェの「タルパーダンス」は、ディバーワリ(ランプの祭り)と呼ばれる祭りの日の舞台としていて、男女が手を取り合いながら渦を巻くように踊る姿を表していました。頭の部分に細かな装飾のような表現が見られましたが、これは祭りのための装身具を描いているのかもしれません。


シャンタラーム・ゴルカナ「カンサーリー女神(豊穣の女神)」 2004年

シャンタラーム・ゴルカナの「カンサーリー女神(豊穣の女神)」も面白い作品ではないでしょうか。貧しいながらも他人に食べ物を与える男へ女神が米を施す場面を描いていて、もはや米は山を築くように堆く積み上げられていました。


ジャンガル・シン・シュヤム「飛行機」 1999年

インド中央部のマディヤ・プラデーシュ州に多く住むゴンド族によるゴンド画は、女神や虎などのほかに、飛行機といった現代の乗り物までをモチーフとしていて、いずれもほぼ単体として描いていました。


ジャンガル・シン・シュヤム「チャーンディ女神」 1999年

またゴンド画は細かな線よりも、小さな点を多く重ねながらモチーフを象っていて、いわば点描画のようにも見えました。なおゴンド族はインドの中でも最大の先住民族で、人口規模は1300万人にも及ぶそうです。


ジャンガル・シン・シュヤム「虎」 1999年

十日町の森の中にある旧小学校の校舎を利用したミティラー美術館では、1988年から多くのミティラー画の描き手を招聘し、インド民俗絵画を未来へと継承すべく活動を続けてきました。また2004年の中越地震により被害を受けて休館を余儀なくされましたが、2006年に1年9ヶ月ぶりに再オープンしました。

私も以前、十日町の光の館に泊まった際、界隈の美術館をいくつか廻りましたが、ミティラー美術館までは行くことができませんでした。いつの日か一度、訪ねたいと思いました。


「ミティラー美術館コレクション展」会場風景

新型コロナウイルス感染症対策に伴い、開館時間が通常より短縮されました。(開館時間:11時~17時。入館締切は16時30分。)また予約は不要ですが、混雑時は入室を制限する場合があります。最新の情報は同館の公式アカウント(@tabashio_museum)をご覧ください。


なおたばこと塩の博物館ではミティラー美術館との共催の展覧会を過去に5回行っていて、今回のコレクション展は2006年以来、実に15年ぶりのことになるそうです。その意味でも貴重な機会と言えそうです。

撮影が可能でした。5月16日まで開催されています。おすすめします。

「ミティラー美術館コレクション展 インド コスモロジーアート 自然と共生の世界」 たばこと塩の博物館@tabashio_museum
会期:2021年2月6日(土)~5月16日(日)
休館:月曜日。但し5月3日は開館。5月6日(木)。
時間:11:00~17:00。*入館は16時半まで。
料金:一般・大人100円、小・中・高校生50円。
住所:墨田区横川1-16-3
交通:東武スカイツリーラインとうきょうスカイツリー駅より徒歩8分。都営浅草線本所吾妻橋駅より徒歩10分。東京メトロ半蔵門線・都営浅草線・京成線・東武スカイツリーライン押上駅より徒歩12分。
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